『高丘親王航海記』/澁澤龍彦 ○

水無月・R、感動の名作、宇月原晴明の『安徳天皇漂海記』で重要な参考資料とされていた作品です。
でも、作品カラーは全然違いましたねぇ~。なんかね、非常に軽妙な感じでしたよ、『高丘親王航海記』澁澤龍彦って言うと、なんだか難しい作品を想像してたんですが。『安徳天皇漂海記』とリンクしてたのは、南海(インド洋)を彷徨うところぐらいだった気がします。

廃太子となった高丘親王は落飾し、仏教の聖地・天竺訪問を夢見ている。60歳を過ぎて入唐(中国への渡航)を奏請し、一気に事を運んで長安に入った。長安でも長くとどまることなく、急ぎ出立し、東南アジアの国々と南海(インド洋)を彷徨い巡り、世にも不思議な体験をしながら天竺を目指すが・・という話なんだけど。

案外に耽美的幻想感がない。人間のように2足歩行し喋る珍妙な動物たち、下半身が鳥という後宮美人、ドッペルゲンガーの趣を持つ秋丸と春丸入れ替わり、思い出の藤原薬子の言動、とファンタジーとして成り立っているのに、耽美な幻想色が薄い。なんだか全てが、少年時代薬子に可愛がられていた高丘親王の見ている、美しい夢のような感じがして。な~んか、あっさりしてるんですよね~。

高丘親王の天竺訪問の夢の発端は、父・平城帝の寵姫・藤原薬子の語る、天竺の不思議あふれる世界。薬子は次の輪廻では鳥になりたいという。
そのせいか、物語の端々に鳥のモチーフがちりばめられ、親王を不思議世界へといざなう。それは現実の親王の体験なのか、天竺訪問の旅の枕に見た夢か。あるいは全て、廃太子となることも落飾することもまだ未来の、少年親王の夢うつつなのか。

そんな続きはないんだけど、
「親王はふと眼を覚ました。ここは天竺ではない。自分の館の居室だ。隣に伏しているのは、父の寵姫の薬子である。もちろん、自分は60歳を過ぎた入道無品親王ではない。」
なんて続いてもおかしくない感じ。…もちろん、水無月・Rの妄想だけど。

物語の途中で、その時代にその言葉はあり得ないだろ~!的な「スペシャリスト」「アンチポデス」「チャンス到来」などが出てきて、なんじゃそりゃ~!と、とても笑えました。更に言うと、~アナクロニズムの非を犯す覚悟で申し上げますが、そもそも大蟻喰いという生き物は、今から600年後、コロンブスの船が行きついた新大陸に~(本文より引用)云々って。
なんで600年後を知ってるんだ円覚(笑)!

・・・何なんだ、この突っ込みどころ満載感は・・・(笑)。いや、でも全然、自然なのね。たぶん、読者は高丘親王とシンクロしているんだと思う。だから、現代の知識が普通に語られても違和感がないわけだ。すごいな、そんな物語を作り上げられる、その筆力。流石、渋澤龍彦~ドラゴン~。

(2007.10.26 読了) 


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