『マラケシュ心中』/中山可穂 ○

熾烈な愛。過剰なまでに、お互いの身を削りあい、奪いあうがごとく愛し合う、2人の女。
・・・怖いなぁ。中山可穂の、激しく狂おしいレズビアンの世界は、水無月・Rから非常に遠い世界にある。だから理解できない、と切って捨てることは簡単だけど、それは出来ない。
「ひと」の中に潜む、激情。愛ゆえに「ひと」は道を踏み外し、愛ゆえに「ひと」は闇に迷う。そしてその愛が激しければ激しいほど、それは簡単に憎しみにすり替わる。
『マラケシュ心中』は、「ひと」の愛の激しさが、津波のように人を飲み込んでいく。波にのみ込まれ、翻弄され、その果てに浮かび上がることは出来るのか。浮かび上がった先にあるのは、光なのか救いなのか、更なる闇なのか。

中山可穂さんって、すごいよねぇ~。何でこんなに、激しいんだろう。レズビアンという愛情関係の特殊性なんだろうか。今回の主人公・絢彦が、激しい想いを、たった三十一文字にこめて撃ち放つ、歌人という芸術家だからだろうか。

男性として歌を詠み、セクシュアリティがレズビアンである、絢彦。
絢彦は、
~~現実の女の躰と心をしゃぶり尽くしながらでなければ言葉をつ紡ぐことができない~~ (本文より引用)。
女の体の上で詠むのが、絢彦のやり方。そんな絢彦が、運命の女に出会ってしまった。恩師・小川薫風の妻という、侵すことのできない領域にある泉。
泉は絢彦に
~~恋がいつか必ず終わるものなら、私たちは恋人同士になるのはやめましょう。~いつまでも離れずに、この世で最も美しい友になりましょう。~~ (本文より引用)
と申し出る。

でも、絢彦は心だけでは足りない、と狂おしい気持ちから逃げるように、ヨーロッパへ紀行歌を詠みに行く。その旅先へ、以前歌詞を書いてやったアイドル・広瀬マオが現れる。絢彦はマオに「自分は決して産むことはできない、自分の子供」のような愛情を抱くようになっていた。マオを護るために、マオを連れてスペインに逃げようとするが、マオは空港でマネージャーに連れ去られる。ロシアでの乗り換えで途方に暮れる絢彦の前に現れたのは、泉であった。

2人はスペインへ渡る。スペインからモロッコにわたり、泉は徐々に解き放たれていく。夫の薫風から、性的関係を持つことができない心から、色々なしがらみから。その絢彦との愛の頂点で、泉の妊娠(薫風によるレイプの結果)が発覚し、それでも絢彦と生きると決めた泉であったのに、薫風からの連絡が入り、絢彦は泉をマケラシュのスークに置き去りにし、砂漠を目指す。

砂漠で強盗に襲われ、自分は「殺されたかったのだ」と気づく、絢彦。廃人のようになり、帰国し。もう愛することも、歌を詠むこともできず、機械的に日々を送る。
最後に、子どもを介して、2人は再会する。その瞬間、あの灼熱と喧騒の国へ飛び、互いに触れ合う。
あ・・・。よかった。このまま、熾烈な愛が燃え尽きたまま、終わってしまうのか、と絶望しかけていたので。
中山さんなら、愛しているけれど死に別たれる、相手がいないからこそ、激しい愛は続くのだ、みたいな終わり方もありかな・・・、でも救われないよな~、それは私的にはつらいな・・・と。この終わりには、希望がある。助かった・・・。

ただね、絢彦の恋の相手である泉の姿が、あいまいに感じられちゃうのですよ。性的関係をもつことができないとか、絶望的な美女であるとか、恩師の妻であるだとか、なんだかやたら美化されてる感じがして。あれだけ激しく、絢彦と生きていくことを決意できたのに、どうして薫風に連絡を取って、マラケシュに迎えに来てもらうような手筈が取れたのか。非常に疑問なのですよね。

それとですね、マオはどうなっちゃったんでしょうか?あれだけ派手にスキャンダルを報道された末に、マネージャーに連れ去られ、このままではヌード写真集、というはずが、全くその後が触れられてません。絢彦はそれどころじゃない状況になったのでしょうけど。

しかしながら、毎度、中山さんの作品は息を詰めて読んでしまうので、酸欠気味になります(ホントです)。「ひと」はここまで、苛烈に他を愛することができるのか。愛ゆえに、仕事も、国も、全てを棄て、道から外れ、相手だけを見つめ続け、相手から躰を心をも貪り、全てを与え・・・。
・・・で、出来ない。無理だ、私には。こんなに熾烈な感情を持つ気力がない。読むだけで、精一杯です。だから、今回の感想も、訳が解りませんね・・・。作品を読んだ時のあの衝撃と、荒波に巻き込まれるような激しさは、全然表現できませんでした・・・ホント私、文才がないな~(笑)。

(2008.01.08 読了)
マラケシュ心中
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講談社文庫 著者:中山可穂出版社:講談社サイズ:文庫ページ数:394p発行年月:2005年05月この


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