『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』/桜庭一樹 ◎

痛いなぁ・・・。桜庭一樹さんの描く少女って、どうしてこんなに痛いんだろう。痛いと言っても、実際の痛覚ではない。もちろん今流行りの「イタイ」でもなく。
「少女」であることのやるせなさというのかな~、私も昔は十三歳で、痛みと闘ってたな~なんてことを思い出してしまう。
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は、そんな「何にも出来ない少女である痛み」との闘いとその記憶を忘れないという、少女の物語である。

日本海に面する小さな町の中学校に、かつて大ヒットを飛ばしたミュージシャンの娘が転校してくる。彼女の名前は「海野藻屑」。とてつもなく綺麗な彼女は、「ぼくは人魚だ」と主張したり、ペットボトルの水をガブ飲みしたりと、言動が不安定。関わるつもりのなかった山田なぎさだったが、何故か藻屑に気に入られ、まとわりつかれる。
次々と明らかになる父親による藻屑への虐待行為疑惑。
引き籠りで神性を備えてしまっているなぎさの兄・友彦。貧窮に不幸感を感じているなぎさ。その不幸感を上回る藻屑の虐待に負けたような気になり焦るなぎさ。
藻屑へ恋心を抱くクラスメート花名島。ウサギ小屋のウサギたちが惨殺され、犯人を押し付けあう花名島と藻屑。そして花名島に殴られ、その怒りがすぎるのを待つ藻屑。

そして、とうとう、嵐が訪れる。

「何か」から一緒に逃げようと約束したなぎさと藻屑であったが、家に入っていった藻屑は2度と現れず、藻屑の父・雅愛は「藻屑は泡になった」という。
兄と一緒に、藻屑を探しに山を登る、なぎさ。そして、藻屑を発見する。
のちに、なぎさは思うのだ。「砂糖菓子の弾丸では、戦えない」と。でも、それでもあたしは忘れない、と。

虐待を受ける側の藻屑が、「ストックホルム症候群」という間違った脳の作用に操られ、引き起こされた悲劇。
どんなに虐待されても「私、お父さんが好きなんだ」という、その歪まされた心が、痛い。
早く大人になりたい、と実弾(現実社会で戦えるもの)を手に入れようと足掻くなぎさ。全てを超越したような友彦。嘘をまき散らし、かまって欲しがる、藻屑。閉ざされた、小さな町の閉塞感。子供であることの閉塞感。

藻屑は、父の大事な過去の栄光である歌に出てくる「人魚」になりたかったのだろう。父親に愛される実感を得たかったのだろう。その歌の3番の歌詞で、人魚は食べられてしまったとしても。いや、だからこそ虐待に愛情を重ねて見ていたのだろう。
藻屑がいつでも携帯し、ぐびぐびぐびぐびっ・・・と、飲み干す水。人魚だから、水。乾いた体を潤す、水。豊穣をもたらす、水。でも水は、器からこぼれたら、地に染み込み、蒸発して消えてしまう。
やがて自分も消えることを予感していたのだろうか。

藻屑が転校してきた9月の初めから「その時」までの間に挟まれる、十月四日の早朝の友彦となぎさのエピソード。繰り返されながら少しずつ進む、十月四日の早朝。惨事へ向かって少しずつ大きくなっていく、不安の増幅と怖れの共鳴。すべてが崩壊し、それなのに世界は続く。

外界との直接交渉を無くすことで得られていた友彦の神性は、なぎさを助けるために家を出たところで喪われた。以後、友彦は普通の少年になる。無理やりではなく、自分の意思で、妹を助けるために、神性を打ち捨て、外界に対峙した。一番いい形で、その神性は崩壊したのではないかと思う。

~~もう誰も、砂糖菓子の弾丸を撃たない。
(中略)どこまでも一緒に逃げようなんて言ってくれない。~~ (本文より引用)
ああ、この物語は『少女には向かない職業』のB面だな、と思う。こっちが先に発表されてるけど。

殺す少女と、殺されてしまった少女。残された子は生きていかなきゃいけない。忘れない。
ロリポップでは、現実世界とは戦えない。でも、子供が手に入れられるのは、実弾じゃなくて「砂糖菓子の弾丸」しかない。
だから、痛い。やるせない。

ううむ~~。また、なんだか分からない文章を書いてしまった・・・。
なんか桜庭さんの少女は、痛みの強さが身にしみてしまって、冷静になれない。自分のあの頃を思い出してしまって痛い。もちろん、殺したり殺されたりなんていう、ドラマチックな痛みではなかったけれど、あのころ自分の世界がどんなに生き辛かったか、そして今もそれを少し感じていることに気付かされてしまうのだ。

だから、痛くて、苦しくて、でも、読んでしまう。
共感なのか、反感なのかすらも、すでに区別がつかないぐらい、ドロドロになりながら。

(2008.10.08 読了)

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A lollypop or a bullet 著者:桜庭一樹出版社:富士見書房サイズ:単行本ページ数


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