『夜明けの縁をさまよう人々』/小川洋子 ◎

小川洋子さんの描く不思議な世界。一見、普通に私たちがいる現実世界のことのようなのに、いつの間にか、何かがズレてる。物語の登場人物たちは、夢の世界と現(うつつ)の世界のあわいを漂っているかのような・・・。
まさにタイトルどおりの世界を感じさせる『夜明けの縁をさ迷う人々』はそんな、美しかったり、グロテスクだったり、そこはかとなく暗黒調だったりする、ファンタジー短編集ですね。

『貴婦人Aの蘇生』も良かったけど、こういう不思議なズレ感のある物語も、いいです。9篇それぞれに、全く違った方向性の魅力があって。

「曲芸と野球」
野球好きの少年が、サード方向へヒットを打たない理由。少年の心優しさ。彼には、いつでも曲芸師さんが見えるのだから。
「教授宅の留守番」
留守の教授が受賞をし、留守番の者とたまたま訪れた私が、信じられないほどの量のお祝いの品に埋もれる羽目に。留守の教授はいったい?ブラックなオチ。
「イービーのかなわぬ望み」
中華料理店のエレベーターで生まれ育った男の生涯。それを看取るウェイトレス。彼女が彼に覚えたのは、恋情だったのか、母性愛だったのか。
「お探しの物件」
こちらが物件を選ぶんじゃなく、物件の条件に合う居住人を探す不動産屋にて。私はどの物件も嫌だ(笑)。
「涙売り」
涙が極上の楽器調整剤になる女が、関節カスタネット男に恋をした末に、極上の涙を流すために行ったこと。痛いのは嫌いです・・・。
「パラソル・チョコレート」
誰しも人生の裏側に別の人間が生きている。ぶっきらぼうだけど魅力的なシッターさんの裏側の人は。彼女が続けていた、チェスの真相は。
「ラ・ヴェール嬢」
マッサージの仕事にいくと、ラ・ヴェール嬢は甘美で退廃的な過去を語る。彼女の遺産である文学全集。
「銀山の狩猟小屋」
女流作家が下見に行った山小屋で、サンバカツギを追って行った男。残された作家と秘書はどうなるのか。
「再試合」
永遠に繰り返される、甲子園の決勝戦。選手に憧れた女子高生の願いが、それを続けるのか。彼女だけの妄想なのか。

私は特に、哀愁の漂う感じがする「曲芸と野球」、現実の存在が優しい幻想に入れ替わる「イービーのかなわぬ望み」、そこはかとない悪意が見え隠れする「銀山の狩猟小屋」、この3篇が気に入りました。
ああでも、「再試合」のループ感も、「ラ・ヴェール嬢」の耽美な成り行きも、好きです・・・。
どれもが、現実と幻想の境がいつの間にか曖昧になってゆき、美しい世界が広がってゆく感じが素晴らしかったです。切り替えのラインが全く見えない、互いを侵食し合い融合し昇華するさりげないその感じが、怖ろしくも美しい。

設定は現代日本風だったり、エキゾチックな東洋風だったり、何となくクラシカルな欧州風だったりするのですが、どれもす~っと馴染んでその世界に入っていけました。
美しくて、ほのかに哀しくて、そしてさりげなく怖ろしい。
ファンタジーだけど、明るいファンタジーではなく、ちょっとだけダーク感が漂う、そんな物語たちでした。私はこういうの、好きだなぁ。

(2008.10.14 読了)
夜明けの縁をさ迷う人々
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著者:小川洋子出版社:角川書店/角川グループパブリッサイズ:単行本ページ数:206p発行年月:200


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