『ファミリーポートレイト』/桜庭一樹 ○

桜庭一樹さんの、「少女であることの痛み」を描いた作品が好きだ。
あの頃の自分の「生き辛さ」を、まざまざと見せつけられ、その物語にバッサリと斬りつけられる。
平和な国の、穏やかな時代の、平凡な少女であった私でさえも、少女であるというだけで「切なくなるほど痛かった」という、忘れかけていた事実に。
しかし、本作『ファミリーポートレイト』で語られるのは、その「少女であることの痛み」では、なかった。

美しい母・眞子(マコ)に連れられ、逃亡と滞在と不在性の日々を送っている駒子(コマコ)。最初の逃亡前から、彼女は情緒発達に遅れがみられ、誰とも口を利かずにいた。
「コーエー」で事件を起こし、母子で逃亡。
寒村での穏やかな生活、マコの流産した双頭の弟。そして、逃亡。
海近くの温泉街での不在性の日々、マコを探しに来た男。そして、逃亡。
養豚の町での尊厳を奪われる日々、廃墟の図書館で、物語を演じるコマコ。マコを探しに来た男。そして、逃亡。
マコがやり直すと誓った、ゆるやかにずり落ちていく盆地の町で、18歳として暮らす13歳のコマコ。マコを探しに来た男。そして、逃亡。
隠遁者として洋館の庭で暮らす、母子。主から教育を受けるコマコ。そして、マコを探しに来た男。マコは、コマコを残して逃亡する(湖に沈む)。失われた10年、そして苦しくも幸福であった10年が、終わりを告げる。
(第一部 旅)

父に引き取られ、高校に通ううちに、校舎に住みつくようになったコマコ。
少年と交尾をし、少女と交尾をし、それでも母のような真紅ではなく、少年のような水色を纏うコマコ。
高校を卒業し、文壇バーでバイトし、そのバーで寝起きするコマコ。自分の中から物語を取り出し語り始める。
その物語が新人賞を取り、作家生活を始めるコマコ。インタビューなどは自分の中のマコに任せて。
自分の物語が、自分を奪われるものから奪うものへと変貌させたことを恐れたコマコは、逃亡する。
逃亡した先で、出会ったポルノスター。そして、恋人。物語の世界へ戻り、我が身を抉り、切り刻みながら創作を続けるコマコ。そして、権威ある文学賞を受賞する。
気忙しい日々の後、マコの出演していた映画を流している店を発見。
きれいな顔。ぺったんこのお腹。ファミリーポートレイト。
コマコは、泣き崩れる。
(第二部 セルフポートレイト)

・・・しかしこれは、あらすじですらないな。すみません。

渾身の作だ、とは思うのだ。
作家という人種の、あるいは文芸界に身を置く者たちの、悲痛なまでの想いと叫びと・・・いろいろな物が充満していて、今にも爆発しそうな、そんな物語だと感じる。
桜庭さんの、自らを曝け出し抉ってでも産み出してみせるという、物語への真摯な思いや矜持、そしてこれからも戦い(物語を描き)続けるという決意が、強く伝わってくる。
そういう面には、肯首できるのだけれど。

なんだか第一部を読んでいると、コマコではなく、マコの物語が気になってしまったのだ。私は両親の娘でもあるが、やはり家族関係の主軸は子供たちの母なのだと、強く気付かされた。
何故、マコは桜ケ丘氏と別れたのか。殺人の理由は。執拗なまでの逃亡の理由(殺人の罪を負うことから逃げているようにはどうしても感じられなかった)。マコのためのコマコと呼び、虐待を続けてきた、その背景は。
どこかで描かれるのかと思っていたが、一切それには言及されず、物語はコマコのために、展開してゆく。それが、私には歯がゆかった。母には、語られるべき物語はないのだろうか。
マコのコマコに対する暴力的な虐待や、養育および教育の放棄は、絶対にあってはならない。許されることではない。それを受容して、マコを崇めるコマコに対して、私は共感出来なかった。
マコとコマコのアウトローな逃亡劇は、あまりにも小市民すぎる水無月・Rの手には負えなかったのだ。

第二部の、コマコが語り手として小説家として、物語を生み出していくシーンは、痛みや苦しみが渦巻いているのだけれど、それを経てこそ生まれ出る物語、だからこそ強く人を惹きつけるのだということが伝わって来て、とてもいいと思った。その中に、何度も出てくる「荒野」という言葉。文学を生みだすために、自分の中にある荒野を旅する、そこで戦い続ける、ということなのだろうか。
お互いしかなかった、あの10年。
そこからの訣別ではなく、そこを持ち続けて創作をし、そして新しい命を内包する。
そして、母の若き日を見つけ、その中に自分を見るコマコの、号泣。
出来れば、新しい命のために、立ち上がって歩きだすコマコを、描いてほしかった。

ううむ~。長い、長いぞ!
なんだか、『私の男』あたりから、難しくなってきちゃったなぁ。
桜庭さんの描く「少女であることの痛み」が好きなので、ちょっと、残念だ。
そして、母と娘の物語なら母であるマコの言い分も聞きたい、コマコも母として立ち上がって欲しかった、というのは、母である自分の身びいきというものだろうか。
ちょっと、そんな事を思いました。

(2009.01.16 読了)

ファミリーポートレイト
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著者:桜庭一樹出版社:講談社サイズ:単行本ページ数:517p発行年月:2008年11月この著者の新着


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