『乙女の密告』/赤染晶子 ○

うわ~。なんだろう(笑)。
現代が舞台のはずなのに、ノリが『それいゆ』とか『少女の友』の世界なんですが、どうなんでしょう、赤染晶子さん。
なんせ、本書のキーワードは〈乙女〉
純潔とかね、「黒ばら組」「すみれ組」とかね、「乙女の皆さん、血を吐いてください」とか、「あたくし、実家に帰らせて頂きます!」(byバッハマン教授)とか・・・これは少女漫画なの?!
かと思えば、『アンネの日記』を題材にドイツ語スピーチのゼミでは、死にもの狂いでアンネの日記を暗唱し、ナチスのユダヤ人迫害(虐殺)やアンネのアイデンテティに迫る深刻さもあり・・・。
この2つのテーマがどうもちぐはぐな感じでした。芥川賞受賞作なんですよね、『乙女の密告』って。
どうも私、芥川賞の作品とは合わないことが多いなぁ・・・(^_^;)。

最初は面白かったんですよ。他の教授の授業中なのに乱入して言いたいことだけ言って去っていくバッハマン教授の奇矯なふるまいとか、「黒ばら組」「すみれ組」のリーダーは何故か名前に「様」がついてる事とか、一つ一つ「なんじゃこりゃ~!」って爆笑しながら読んでたんですね。
特に「黒ばら組」リーダーの麗子様(←よりにもよって麗子様(笑))が「おほほほほ」と高笑いしたり、ストップウォッチを「これがわたしのペンダントやよ!」と言ったりする辺りでは、笑い過ぎて脱力。
「教授と女学生の黒い噂」とか「わたしは密告される。必ず密告される。」という帯の言葉から、かなりシリアスな物語だと思ってたんで、余計に。

だけど、そのうち、なんか変だな~って言う感じになって来るんですよ。というのも、現代の(外国語大学とは言え)女子大学生が、「純潔」を旨とする〈乙女〉であることを、そんなに重視するかなぁ・・・という疑問がむくむくとわき上がって来てね~。なんか変じゃありません?かなり厳しい「スピーチゼミ」で血を吐くような努力をしながら勉強していると、世界が限定されてきちゃうのかしらん・・・。
「教授との黒い噂」が立つと「不潔やわ」と思うのはいいとして、「あたしは乙女やねん」って何?!「乙女にとって真実は禁断の果実」「乙女の美しいメタファーは真実をイミテーションに変えてしまう」って・・えぇ~、ナニソレ・・・。と、テンションが下がってしまったんですよ。〈乙女〉である事って、そんなに重要?

麗子様が教授との黒い噂で黒ばら組から追放され、代わりに主人公・みか子の親友・貴代(ドイツからの帰国子女)が台頭したり、教授が愛玩している西洋人形「アンゲリカ人形」が誘拐されて教授が半狂乱になって犯人宛ての貼り紙をしたり、実はそのアンゲリカ人形を誘拐したのは教授に恋い焦がれていた麗子様で、みか子が麗子様からアンゲリカ人形を預かってしまったり・・・となんだかバタバタと物語は進行していく。
みか子は演台に立つと、暗唱課題の「1944年4月9日、日曜の夜」の日記のある言葉を忘れてしまい、どうしても思い出せない日々を送っている。麗子様はそんなみか子に「その言葉が一番みか子にとって大事な言葉である」という。
ドイツ国籍を剥奪されたユダヤ人であるアンネ・フランク。彼女は「戦争が終わったら、ドイツ人になりたい」と願っている。スピーチコンテスト本番でその言葉を忘れ戸惑ったのち、アンネの「他者になりたい」というその言葉を思い出し、一番自分に必要な言葉として出会ったみか子は、壇上でアンネ・フランクの真実を語る。高らかに宣言する。
「私は密告します。アンネ・フランクを密告します」「アンネ・フランクはユダヤ人です」
みか子は〈乙女たちの誰か〉ではなく〈密告者〉になることで、自己を確立したのか・・・。
何とか〈乙女〉と〈アンネ・フランク〉を結び付ける終わりだったけど、どうにも私にはしっくりこなかった。ううむ。

〈乙女〉が〈乙女〉である為に、何かしら爪はじくべき存在を作りだし、寄ってたかって陰に陽に攻撃する様は、醜い・・・と思う。だが、乙女たちの中では、それこそが「己は純粋である」という主張である。
ユダヤ人を迫害した多くの「普通」の人々も、きっとそんな周りの流れに流されたのだろう、と思う。そしてその被害を受けたのが〈アンネ・フランク〉という少女であり、「その他大勢が受けた「ひとごと」のホロコースト」を一人の少女の悲惨で切実な現実である、と私たちに認識させてくれるのだ、と気づいた。
そういう意味では、感じるところもあったんですよね~。ううむ。

ちなみに本作、短くブチブチッと切れるのが特徴の特殊な文体だと思うんですが、それにはそんなに違和感を感じなかったです。物語のテンポのよさを、上手く乗せてる感じがして、逆にいいと思いますね。

(2011.04.12 読了)

乙女の密告
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赤染晶子 新潮社発行年月:2010年07月 予約締切日:2010年07月15日 ページ数:121p


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