『海に沈んだ町』/三崎亜記 ○

あの〈3.11 東日本大震災〉のあと、この『海に沈んだ町』というタイトルの作品を手に取るのは、少々ためらいがあった。
もちろん、全然関係ない。初版は2011年1月だし、雑誌掲載に至っては2009年の夏である。
内容だって、地震や津波ではなく、三崎亜記さん特有の〈日本に似ているけど、明らかに構成のルールが違う世界〉での日常の出来事である。

それでも、表題と同じ章タイトル「海に沈んだ町」を読んだ時、オーバーラップしてしまったのだ。
いつもそこにある日常が、ずっと続くと思っていた・・・、だけどそれは幻想で、突然大きな何かが起こり、否応なく一瞬にして日常は失われる・・・と。私の住んでいる地域は、計画停電すらなかった、被害のない場所だったにもかかわらず、その恐ろしさは想像するだけでも、痛ましくて。

それでも、9つの物語全てを読み終えて思うことは、世界は孤独で淋しいけれど、それでも優しいのだろう、ということだった。三崎さんの描く世界では。
そして、出来れば、この現実世界でも。

「遊園地の幽霊」
かつて遊園地があった町に住む人々は、かつて存在した遊園地にいる夢を見る。
「海に沈んだ町」
自ら嫌って飛び出した町が、海に沈んだという。
「団地船」
かつて人々が憧れた団地住まい。海上を彷徨うその船の行く末とは。
「四時八分」
早朝の、その時間がずっと続く町がある。
「彼の影」
影が反乱をおこし、私の影はいつしか男性の影をになっていた。
「ペア」
不足を補い、何かを生み出すペア。ペアであることが安息。
「橋」
町の経済状態に合わせ、橋を架け替えるというのだが。
「巣箱」
いつの間にか、街の至る所で発生する巣箱。
「ニュータウン」
ニュータウンは、独自文化を守るためとして、外界との接触を断たれた。

町は生きている、というと童話「森は生きている」みたいだな。
そんなファンタジーではなく、実際に町は生命体で、意思を持っていて、そこに住む人々とはまた別の理(ことわり)を持って、存続している。
例え、現実世界の私たちにとっては不条理な事であっても、物語の世界では致し方ない事として受け入れられている。そして、不条理だと感じつつも、私たち読者も、その世界を読むときはそのルールを受け入れている。
いつも三崎さんの物語を読むときに感じる、そこはかとない郷愁はきっと、その曖昧なボーダーラインの淋しさと温かさを受け取っているからなのだと思う。

「遊園地の幽霊」や「彼の影」などは、心温まる終わり方で良かったし、静かな悲しみの漂う「四時八分」の雰囲気も良かった。
「ペア」はペアであることの意味や意義がわからないまま、あのラストを迎えるてしまうのがぞっとする。掴みどころのない〈「ペア」であること〉に依存しているた主人公だったけれど、実はそのペアは成立していないものなのかもしれないという・・・。では、彼女は一体何に依存しているのか・・・?
「巣箱」も、何が怖ろしいとはっきりは言えないのが、怖ろしい。結局巣箱が何なのかはやはり判らないんだけど、それを撤去(駆除)することが、第一命題になってしまっていること、そのため大切なモノが壊されてもそれにすら気付かず喜んでいることが、うすら寒い気持ちにさせられる。
「ニュータウン」のニュータウン保護政策の勝手さに苛立っていたのだけれど、予想外の解放手段に驚かされた。そして、登場人物たちが幸せになるだろうという終わり方が、よかった。

本作は、白石ちえこさんの写真とコラボレートしているんですよね。
ただ・・・どうも私、芸術への共感力が弱くて、違和感は感じないものの「素晴らしいコラボレーションだ!」っていう感じはなくてですね・・・ううう、すみませんm(__)m。
ただ「団地船」の中にあった水面に浮かぶかのような団地の写真は、すごいと思いました。本当に、船みたいだ・・・。写真をもとに、物語が描かれたのでしょうか。読んでいて、急に視界が開けた感じがしました。想像力を刺激して補う事が出ました。感性が鋭ければ、他の写真にも響くものを感じられたのかなぁ・・・と思うと、自分のキャパの狭さがちょっと悔しいですな。

ところで、連作短編だということですが、そんなには繋がってないですよね。ちょっとしたキーワードが別の物語で出てくるぐらいで。
でも、ということはこの9つの物語は一つの国(世界)の日常風景、ということですよね。だとしたら、すごいことですね。これだけ、色々と不条理な事が起こるのにそれが普通なことで、それでも私たちの世界から微妙な距離を保ちつつも離れては行かない・・・ということなんですから。

(2011.07.03 読了)

海に沈んだ町
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三崎亜記 朝日新聞出版発行年月:2011年01月30日 予約締切日:2011年01月23日 ページ数


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