『伏 ~贋作・里見八犬伝~』/桜庭一樹 ○

実は、原作である『南総里見八犬伝』は、大体のあらすじは知っていますが、読んだことないんですよね・・・。
かなり壮大な江戸時代の物語で、作者は滝沢(曲亭)馬琴。
伏姫の元にあった、「仁義礼智忠信孝悌」の文字が浮かぶの水晶玉を持った、苗字に「犬」がつく八人の剣士の大活劇なんですよね、ざっくりと纏めてしまうと(←まとめ過ぎ)。
それを桜庭一樹さんが、贋作と称して描き直すと、こういう物語になるんですねぇ。なるほど。
厚みがあるけど、一気読み出来ましたよ、本作『伏 ~贋作・里見八犬伝~』。物語に勢いがあって、面白かった~!

少女の身ながら猟師である浜路は、異母兄である道節を頼って江戸へ上ってきた。道節は「伏(ふせ)」という犬人間たちを狩って暮らす、賞金稼ぎになろうと浜路に持ちかける。
浜路は、猟師の鼻で嗅ぎつけた生臭い匂いをを追って、吉原の花魁とその禿2人を追い詰め、その首をあげる。その捕り物騒ぎは、翌朝には読売りとなり、世間に知らされる。面が割れたと大騒ぎした浜路は、知り合いの船虫という飯屋のおかみから読売の作者である冥土の事を聞き出し、そこへ乗り込む。
実は、冥土の父は高名な戯作者・曲亭馬琴で、「南総里見八犬伝」という物語を世に発表しているが、その下調べをしているのが息子の冥土。里見家の伝承を調べるうちに、別の物語が見えてきた冥土は「贋作・里見八犬伝」を書いている。乗り込んできた浜路に、その物語を読みあげてやる冥土。
冥土にもらった芝居の切符で、兄道節と船虫を伴って、「怪盗玉梓」の芝居を見に行った浜路は、そこで伏である役者・信乃を見つけて、追い掛け始める。廃屋に逃げ込んだ信乃を追い詰めると、二人は穴に落ち、共に出口を目指すことになる。その間に、信乃は自分たち伏が終わらせた「伏の森」の物語を、浜路に語る。
浜路たちに追いついた道節ら「伏せ狩り者」たちが矢を射かけ、信乃は出口を飛び上がる。そこはなんと江戸城内。
江戸城内での大捕り物の末、道節は大柄な伏を狩り倒し、浜路は信乃に天守閣から蹴り落とされ、道節に助けられる。
翌日、兄妹の元に役人が現れ「江戸幕府公認 伏狩者」の手形を置いてゆく。
それを持って、浜路と道節は旅立つが、その後からひょこひょこと付いてくる冥土の姿が。かくして3人は、伏を狩り、それを物語る旅路に出たのである。

ぐいぐいと、物語が私を引っ張る。
小柄な少女ながら、猟銃を撃たせれば比類なき優秀な猟師である元気で愛らしい浜路と、荒っぽいし粗雑だけど豪快で、妹をそれは大事に思っている兄、道節。そして青びょうたんでひょろひょろしているけれど、伏の物語となる目の色が変わり、生き生きとそれを綴る冥土。
里見家から始まった「伏」の物語の始まりと終わり。
狩るもの・浜路と、狩られるもの・信乃の奇妙な心の交感。だがその交感はすぐに反転し、追うもの追われるものとしての命のやりとりに変わってしまう。
その対立のバランスの上手さが、とにかく先へ先へと読み進めさせる。面白い!

ただ・・・私的には、登場人物の名前を八犬伝の八犬士に頼らない方が良かったんじゃないかなぁ、という気がします。同じ八犬士同士なのに、狩るものと狩られるものに分かれてるのもおかしいなぁと思うし、船虫などもっとアクの濃いキャラだという認識があるので、ただのコソ泥女だとなんとなく残念感が漂う。
曲亭馬琴の物語「八犬伝」は別にあるとして、伏たち犬人間には、オリジナルな名前を与えてやった方が、妙な不整合性が気にならなくていいんじゃないかしらん・・・。

桜庭さんといえば〈少女の生き辛さ〉を描いたら、読者までもが息苦しくなるような、そんな狂おしさが描ける作家さんですが、今回はそういう面はあんまりなかったかな。あえて言えば冥土の読みあげた「贋作・里見八犬伝」の伏姫とその弟の鈍色がそんな感じだったような。この物語がまた面白い。おてんばな伏姫が天守閣から飛び降りるシーンや弟と二人で天守閣に幽閉されている叔母を探りに行ったりするシーンなど、ドキドキワクワクするエピソードがいっぱい。
名もなき森に生えていたという〈人間の歯の形をした葉をもつ木々〉というのもなかなか幻想的だ。歯の形ってよく考えると、かなり変なものなんだけど・・・。その銀色の葉っぱがさわさわと風にさざめき、人知れぬ種族の住む森。うん、こういう設定は好きだなぁ。

浜路たちの物語、伏の森の物語、贋作・里見八犬伝と、様々な物語がギュッと詰まって、そして一つの物語として勢いよく構成される。とても楽しい読書でした!
一つ気になるのは、これ続編が予定されてるのかな?ってことですね~。信乃は逃げおおせたし、浜路たちは伏を追って上方に向かったし、確か親兵衛(最初に浜路が狩った花魁の犬人間・凍鶴の子供)も上方に行ったんじゃなかったかしら。
どういう展開になるのかわからないけど、出来れば「南総里見八犬伝」の事は忘れてしまうような、オリジナルな大活劇が読みたいですね♪

(2011.08.10 読了)

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文藝春秋
桜庭 一樹

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