『スリジエセンター 1991』/海堂尊 ◎

やっぱり、世良先生は〈桜宮サーガ〉きってのシリアス主人公だと思うな~。
なんか、田口センセとは別次元の意味ですごく苦労してるし、更に言えばとてつもなく苦悩してる。
読了した時、結構切なかった。もちろん、世良先生だけが辛いんじゃないけど。
海堂尊さんの〈桜宮サーガ〉における、『ブラック・ペアン』シリーズ3部作(『ブラック・ペアン 1988』『ブレイズメス 1990』)の最終巻である本作『スリジエセンター 1991』
こうやって年号入りのタイトルを並べると、たった3年の間に色んなことが起こったんだなぁ…と、感慨が深いですね。

『ケルベロスの肖像』で高階院長が語った、過去の後悔のうち〈さくらの苗木を引き抜いた〉方の顛末がこの物語。
今回、高階先生はちょっと頑な過ぎです。才能ある若者ゆえの潔癖なのかしら・・・。惜しい気がします。
天才心臓外科医・天城を「拝金主義」と断じているけど、でも世良はその天城を「善意の塊のような手術術式」を提供すると評価している。
確かに、手術の代償として「スリジエセンターへの寄付」を要求する、しかもその額が半端なものではない、というのは「命を金に換算するのか?金のないものは医療を受ける権利がないのか?」という論理になるけれど。
天城を召喚した佐伯院長に、そんな意図があるわけではないってこと、わからなかったのか…。
〈スリジエセンター〉をつぶすのは、当時の高階にとっては医療の理想を目指すためには、必要なことだったのだろうけど。

しかし、今回物語を読んでいて、なんだかすごいなぁって思ったことがあります。
それは、佐伯院長のスケールの大きさ。まさに巨魁、大人物。当時の高階が〈小天狗〉と呼ばれる講師だったことを差し引いても、傑出していると思います。あの時代において、小さな院内政治の病院改革ではなく、医療界を大きく変える構想を持ち、それを実行するに王手をかける直前まで行った。もし、佐伯の構想が実現し、東城大学病院が改革され、そこから医療界全体が変わっていったなら。全く違った世界が来ていたことだろう。
その流れを止めた高階にも正義があったし、そうでなければ〈桜宮サーガ〉は全く違ったものになっていただろうから、歴史は変えられない、全ての過去は通り過ぎた時点で必然だったことなのだ、ってことなんだとは思うけど。

どうも今回のレビューは「けど」を多用してしまう。
とても残念な結果になってしまった、と思うからかもしれません。
勿論、「物語の世界」のことであって「現実世界」のことではないのだから、私が残念に思っても、意味がないんですけどね(^_^;)。

今回の物語はもうすでに起こった過去なので、「スリジエセンターは誕生せず」「世良は失意のうちに東城大病院を離れる」という事はわかっていて読んでたので、「何故そうなったのか」をずっと追っていて、ちょっと辛かった。

あ、でも〈あの人の過去って、こんなことあったんだ!〉とか〈この人がああいう人になったのは、こういうきっかけがあったからなんだ!〉とか、そういう発見もあって、そういう意味では面白かったです。
高階院長の「恐怖の丸投げ術」は佐伯院長直伝だったんだ!とか、彦根の医療改革構想の原点は天城に出会ったことによるのか!とか。『ジェネラル・ルージュの伝説』の〈速水以外の全外科医不在〉って、こういうことが起こってたからか!というのは、なんかすごくドラマチックだったわ~。
何故、高階が藤原看護師から「ゴンちゃん」と呼ばれるのか、とかね。藤原さん、秘密を握るのうまいなぁ(笑)。
高階の帝華大の同期の坂田って、白鳥の上司だよね?う~わ~、ここでも繋がりが…。
色んな人間関係や因縁や、それぞれの思惑が絡み合って、〈桜宮サーガ〉という大きな歴史物語が構成されるんだなぁ・・・。
ちょっと壮大すぎて、読者にやさしくない感じがしなくもないな~・・・(^_^;)。

この物語の当時、黒崎先生はもう教授だったわけだけど、すごいですね『ケルベロス』でも健在だもの。
今までのシリーズでは〈頭の固い嫌味な教授〉というイメージだったけど、実は佐伯外科の精神を受け継ぐ、その精神に対して実直な人だという事がわかって、ちょっと好きになったかな。
佐伯院長は、その人物の大きさに、すごく惹かれました。佐伯先生と同期の桜宮市民病院の鏡先生もなかなか偉大な人物で、そういう時代だったのかな~と、思いましたね。佐伯・鏡・桜宮(碧翠院の巌院長)で、真行寺外科の三羽烏・・・かぁ。確かに、すごいメンツだ~。

・・・う~ん、なんだか全然感想がまとまってないですね。
色んな事が起きて、これから先の物語につながっていく、原点のようなシリーズの最終章。
病院内の派閥争いとか、支払いを逃れようとする患者のこととか、あまり美しくないこともたくさん描かれている。
それでも、日本に〈さくら並木〉を植えたかった天城、その理想と現実に揺れながらも全力でついていった世良、自分が願う医療界を目指して天城の作る流れをせき止めた高階、天城の一瞬の光芒を経験した速水、重厚な存在感ですべてを動かし潔く去って行った佐伯、さまざまな人物の、さまざまな思いが作り上げたこの物語は、「医療」というものが多面体であることを如実に表してるな、と思いました。
出来れば、患者のための医療であることを、願ってやみませんが…。

(2013.05.29 読了)

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海堂尊 講談社発行年月:2012年10月 予約締切日:2012年10月24日 ページ数:413p サ


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