『烏は主を選ばない』/阿部智里 ◎

前作『烏に単は似合わない』の続編かと思ったらそうではなくて、あの時全く桜花宮に来なかった若宮が何をしていたか、という物語でした。
前作は華麗な姫君たちの饗宴(妃争いというより、美しく賢く成長していく姿)が描かれていたんですが、本作『烏は主を選ばない』は打って変わって男の政治の世界!って感じです。
阿部智里さん、すごいですねぇ。同じ世界で同じ時期で、だけど全然状況が違う物語、素晴らしいです!

とある一件から、〈本物の金烏〉たる若宮の側仕えとなった、北領は垂氷郷の郷長の次男・雪哉。権謀術数渦巻く若宮の周辺で彼は、警戒のあまり人を寄せ付けない若宮にこき使われたうえ、危うく暗殺に巻き込まれそうになったり、借金の形に花街の下働きにされたりと、散々な目に遭う。

金烏宗家の正妻の子であり長子である長束を差し置いて、〈本物の金烏〉であるとして後継者に指名された若宮は側室の子であり、その母ももう亡くなっている。長束は温和で優秀な八咫烏であり、朝廷内の人望も高い。若宮が次の金烏になることに難色を示すものも多く、朝廷内は密かに2つに分かれて勢力を競い合っている。
そんな困難な状況下で、中央へ出て目立ちたくない雪哉が、若宮から与えられた大量の仕事を意地でも一人でこなし、認められて近習に(本人は嫌がってたけど)なり、若宮について彼方此方へ行き、いろんなこと見聞きし経験し、政治の世界の過酷さなどを知っていく。味方だと思うものが、実は味方ではなく、逆に敵方からも、こちらに情報を知らせる者がある。
ある意味、少年の成長物語ですねぇ。政治の話は、色々とドロドロしすぎてますけど。

しかしですねぇ。若宮が桜花宮を訪れない理由を雪哉に説明してやるシーンがあるんですが。
う~~~ん。いや、すっごく正しいと思うんですよ。そして、たとえ彼女たちはそれを聞いてもなお、きっと若宮を求めるのだろうという、・・・なんか切ないなぁ。前作で、彼女たちの事情を知ってるが故に、とても切ない。
次の世代の政を担う若宮としては、合理的に事を運ばなくてはいけないし、情に流されて足を取られるようではだめなんだろうけど。
まあ、前作で妃に選ばれた姫君は、それを理解できるしそんな若宮を助けていける素晴らしい女性だから、大丈夫ですね!
でも、やっぱり1・2発は殴っといたほうがいいと思いますが(笑)。
本作中でも、妃に心当たりがあるような意味深発言をしているから、やっぱりあの人のことは大事に思ってるんだろうな~とは感じました。

・・・そんでですねぇ、雪哉がねぇ、かわいいんですよ(笑)。若宮のムチャ振りにもめげず、意地になって仕事をこなしていくところとか、すごく頭の回転が速いこととか、肝が据わってるところとか、時々抜けてるところとか、そして若宮に対してもずけずけと口を利くところとか、すんごくかわいい。
彼が中央で出世したいと思わない事情が分かって、とても健気だなぁなんていい子なんだ~と、余計かわいい~!って思う…おばちゃん的発想です(笑)。
そんな雪哉が、物語の最後にした決断。
ちょっと残念だな、って気もするんですが、雪哉らしいのかもしれないなぁ。あれだけの才覚と度胸があれば、いかなる立身出世も夢ではないと思うんですけどね。

 
女性が煌びやかに描かれた前作と比べ、本作は長子を差し置いて金烏を継ぐ側室腹の若宮、という政治の世界の物語。闇にまぎれて襲撃されたり、袈裟掛けに切り捨てられて血飛沫が飛ぶ者がいたり、麻痺薬の混じった香を嗅がされて体が動かなくなったりと大変血生臭~い状況が多々出てきます。そのシーンの時は、ぎゃ~って思うんですが、物語の必然と感じるので、嫌ではなかったですね。こういう描写もできるんだから、阿部さんてすごいです。

シリーズ化、しないかなぁ。
本物の金烏って、どういうことなのか知りたいし。
若宮と妃の朝廷改革の物語も、きっと面白い。
前作の姫君たちのその後も知りたい。
雪哉が実家に帰って、兄を助けて垂氷郷を豊かにしていく物語も、穏やかでいいかもしれない。
ちょっと、期待しちゃいます。

(2013.10.22 読了)

水無月・Rの〈八咫烏世界シリーズ〉記事
『烏に単は似合わない』  ◎
『烏は主を選ばない』  ◎ (本稿)
『黄金の烏』  ◎
『空棺の烏』  ◎
『玉依姫』 〇
『弥栄の烏』 〇
『八咫烏外伝 烏百花 ~蛍の章~』 ◎


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阿部智里 文藝春秋発行年月:2013年07月08日 ページ数:344p サイズ:単行本 ISBN:9


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