『ことり』/小川洋子 ○

小川洋子さんの作品は、久し振りです。穏やかで静かな物語は、とても落ち着きますね。
ささやかな喜びを描きながらも、全体に流れるのは淋しさと悲しさ、そして温かさ。「ことりの小父さん」と呼ばれる主人公の、ひっそりとした一生が丁寧に、美しく描かれています。
『ことり』というタイトル通り、小さい小さい命を慈しみ、共に生きてきた小父さんの、静かで孤独な死が冒頭にあり、彼の過ごしてきた人生がつぶさに語られ始める。静かでささやかで、けれども様々な出来事の通り過ぎてゆく人生。

7つ年上のお兄さんは、ある日から独自の言葉しか話さなくなる。子供の頃から小父さんにしか理解できないその美しい言語は、小鳥たちと通じ合うものだったのかもしれない。何よりも小鳥を愛したお兄さん。そのお兄さんと共に暮らした穏やかで聡明な日々。そしてお兄さんは亡くなり、一人になった小父さんは幼稚園の鳥小屋の掃除を始める。図書館で「鳥」に関する本を見つけては借りる日々。淡い恋にも巡り会うが成就することはなく、静かで穏やかな日々も、少しずつ変化を遂げていく。
川べりで出会った、虫箱を持つ老人。幼女誘拐事件が起き、心無い噂が流れる。小鳥と子取り。傷ついたメジロの幼鳥。メジロの世話とメジロの歌の成長。そして、訪れる、物語の冒頭。

小父さんが図書館で読んでいた『ミチル商会 八十年史』にあった〈鳥籠は小鳥を閉じ込めるための籠ではありません。小鳥に相応しい小さな自由を与えるための籠です〉という言葉が、とても印象的。
小父さんは小鳥のようなものだったのかもしれないな、と思うのです。家、青空薬局、幼稚園、職場のゲストハウス、図書館・・・あまり広いとは言えない小父さんの行動範囲は、鳥籠そのものだったのかも。小父さんが安心して暮らせる、その小さい範囲。それよりさらに狭い、お兄さんの行動範囲。
それでも彼らは幸福だったし、ささやかな想像旅行も楽しんだ。
小さな自由に囚われていたのではなく、小さな自由を愛し、その中で精いっぱい歌い、穏やかに生きていた。
新たに加わる小さな命を慈しんで。その命と共鳴し、歌を捧げられながら、小父さんは静かにその生涯を閉じる。

静かで、ひっそりと孤独で、でも温かくて、淋しい。生き辛い人の一生が、美しく描かれていたと感じます。
天に召された小父さんは、きっとお兄さんと再会し、自由自在にポーポー語で自分の一生を語り、上達したメジロの歌を愛で、穏やかにやさしく暮らすんだろうな、と思いました。

小川さんの長編は、ちょっと難しい。一つ一つのエピソードを独立させ、もっと幻想的に描いたら、私の好きな浮遊感が美しい短編になるんじゃないかしら、なんて思ったりもしました。

(2013.12.03 読了)

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