『桜の首飾り』/千早茜 ○

桜にまつわる、7つの物語。
儚く美しいあの淡い色合いは、人を魅了するけれど、魔を引き寄せることもあるんじゃないか。
魔とは、ひとの心の隙間。
千早茜さんが描く、心の隙間に滑り込む物語たち。
現実の桜の花びらをつないで作った『桜の首飾り』は、すぐに萎れて茶色くなってしまうけれど、心の中の桜の光景は、いつまでも美しい。
そんな物語たちでした。

どの物語も、桜という独特の花のイメージによく合う。これでもかというぐらい盛んに咲き誇り、満開からあっという間に桜吹雪で散り透き、淡い紅色とも白色ともつかない幽玄を湛えて、ひとの心を魅了する。その下に死体が埋まっているという言葉(もちろん事実ではない)が一般に受けれられてしまうぐらい、妖しさを持った樹木。

一番好きなのは「樺の秘色」かな。
厳しかった祖母が生前、常に身につけていた、桜の幹染めの襦袢。何枚も何枚も持っていたのは、着物の下に着るもので、外からはほとんど見えない秘めた色。
その祖母が、かつて見ていた少女の幻影を、私は今見ている。何故その少女が見えるのか。押し隠した色ほど滲み出る。
それを気づかされた私は、自分のずっと隠していた色に向き合い、傷つきながらも昇華されていく。
どうしようもないことがある。苦しんで、苦しんで、それでも表に出すこともできないで。でも、それを認めたら、少しは解放されるのかもしれない、と思ったら読んでいて少しだけ楽になった。きっと主人公は、また絵を描くようになるんじゃないか、桜の絵を、少女の絵を、最愛の人とその家族の絵を。きっと別の形で報われる日が来る。

7つの物語は、ひっそりと一つの町の物語かもしれないなぁ、なんて思いました。
「春の狐憑き」の主人公が務める美術館とその下にある桜がたくさん植わっている公園は、「樺の秘色」の主人公が卒業制作展示した美術館だと思う。。「初花」にもそれらしき公園が出てくるし、何となくほかの物語もつながる部分がある気がします。
一つの町に、これだけ桜の物語が隠れている。
それぞれ、騒ぎ立てることなく、そっと咲いている。悲しさも、苦しさも、儚いその花姿に紛れ込ませて、何気ない日々に埋もれるように。優しかったり、温かかったり、切なかったり。
そんな物語をそっと拾い上げ、丁寧に紡いでつないで作った桜の首飾りは、現実の花弁のように萎れることはなく、ずっと美しくいられる。
読めてよかったです。

実を言うと、満開の夜桜が苦手です。余りにも幽玄すぎて、いつしか吸い込まれるのではという気がしてしまって。昼間は案外平気ですが。
そして、どちらかというと、葉桜の方が好きです。生命力が満ち溢れている感じがします。
・・こんなこと書くと、どんだけ私って風情のない人間なんだ!って、ねぇ(笑)。

(2014.09.25 読了)

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千早茜 実業之日本社発行年月:2013年02月 ページ数:209p サイズ:単行本 ISBN:978


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