『ほんとうの花を見せにきた』/桜庭一樹 ○

竹のおばけ、バンブー。中国から来たという。
人間と距離をおいてその存在をひた隠しにしている彼らの中の一人が、凄惨な殺戮現場から幼い少年を救い出した。
桜庭一樹さんが描く、120年の寿命を持つ吸血鬼の物語三編。
私は表題『ほんとうの花を見せにきた』よりも、「あなたが未来の国へ行く」の方が好きかな。

少女である痛みの物語でも、人生泥沼系でもない、新しい桜庭さんの作品傾向なのかしら。
まだ入り口、という感じですが、切なくて儚く美しく、少しだけ残酷なところが、結構好きです。

吸血鬼だけど、永遠に生きるという訳ではない、というのが切ない設定。でも、鏡には映らず、太陽の光を浴びることはできず、年を取らないというところは、スタンダードな吸血鬼と同じ。
竹のおばけという事で、青竹の香りがするというのは、なんだか素敵ですね。

植物の竹は、数十年に1回いっせいに花を咲かせてその後その竹林全部が枯れてしまうのだそうです。バンブーたちも同じく、寿命が120年で、白い花を咲かせ、散って死んでいく。いっせいにではないけど。

「ちいさな焦げた顏」は、バンブーに救われた少年・梗と梗を愛おしみ育んだ二人のバンブーの物語。もう年老いることもなく人にまぎれてひっそりと暮らしていたムスタァと洋治の、成長し変化し生きるという火を輝かせる梗への、強い憧れにも似た思いが、切なかったです。
梗が友達になったはぐれバンブー・茉莉花。茉莉花と梗は無分別な行動をし、バンブーの掟に裁かれることになってしまう。
そして、梗を育てた罪を負って、洋治もまた・・・。
洋治とムスタァの人間の命の火への思いの強さ、梗への愛情、それがこんな結果になってしまって、とても切なかったです。
街を逃げ出した梗の茉莉花との再会のシーンも、〈人間とは忘却する生き物だ〉という事が、切なくて切なくて。でも、毎日を生きていくという事は、そういう事なのかもしれません。
そんな梗も、かつての故郷に戻り、ムスタァたちと暮らした家に住み、ムスタァに再会して。そして、ムスタァの覚悟の最期を共にして。忘却するけれど、愛情は、ずっとずっと強くあり続ける、そんなラストが素敵でした。

表題作「ほんとうの花を見せに来た」は、ムスタァに救われ、梗に育てられた少女・桃と茉莉花の物語。一緒に旅をしながら人間を襲い生活してきた二人だけど、やっぱり別離の時は訪れる。茉莉花は少女のままだけど、桃は少しずつ大人になってしまうから。何年もたって、ただの主婦として生活していた桃のところへ、茉莉花は約束の白い花を見せにくる。
やっぱり、人間は忘却の生き物だ。忘却って残酷だ。だけど、忘却の中から引き揚げた思い出、うつくしく舞い散る花。
120年って、長いようで短い。人間だって、今は80年生きるのだもの。それでも、120年目の白い花は、儚くて美しくて、そして少し残酷だったと、感じました。

一番好きだった「あなたが未来の国へ行く」。中国の奥地で人と共存していたバンブーたちが、文化大革命で都会から送り込まれた人間たちに追われて更に山奥へ移住することになった際、一部のバンブーが川を下り国外脱出を図ることになった物語。
賢い竹族の王女は、弟の窮地を救い、その船に弟を乗せ送り出す。弟は姉の作ったバンブー族の法案を胸に、旅立ってゆく。
その弟王子・類類は、「ちいさな焦げた顏」でバンブー族に君臨する王。あんなに弱くて揺れてばかりいた少年が、数十年後には戒律に厳格な冷徹な王になったのには、驚きました。死をもって自分を送り出してくれた姉の思いを必死に守ってきたから、なのかしら。
多分、洋治と思われるバンブーも出てきましたね。
ずっと姉である王女の語りが続き、最後の最後に類類が自分の逃走を語り。一番最後に、姉王女の言葉が入る。
~~あなたが未来の国に行く。~運命は自分で変えられる~きっとできる。~~ (本文より引用)

『桜庭一樹短編集』の中の「五月雨」に出てくる吸血鬼と同じ吸血鬼たちの話なのかなぁ・・・。
でも、あの吸血鬼は狩人に追われてた。狩人は家族を吸血鬼たちに殺されたと。バンブーたちは人を殺さないという規律を守ってるはずだから、違うのかしら。もしかすると、類類の次の王が〈ひとを殺してはならない〉という規律を変えた後の話、とか?だとすると、類類の退位の物語、なんてのもありそう。そして、あの短編で山の上ホテルで銀色の粒となって四散した吸血鬼は、最後の一人だったと思う。そうなるに至る物語も、いつか読めるのかしら。

(2015.05.17 読了)

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桜庭一樹 文藝春秋発行年月:2014年09月26日 予約締切日:2014年09月24日 ページ数:3


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