『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』/紅玉いづき ◎

少女サーカスの演者たちの、息詰まるほどのプライド、荒々しく繊細な美しさ。
文学者の名前を冠される彼女たちの、「不完全で未熟で不自由で」それでいて「常に至高」な演目。
〈少女〉とこういう設定って、本当に似合いますね。
紅玉いづきさんの描く、少女たちそれぞれの戦い方。
『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』の決意したラストが、とても美しいと感じました。

練習中の事故により、片足が動かなくなってしまった「サン=テグジュペリ」こと片岡涙雨(るう)。双子の妹・愛涙(える)は涙雨に懇願され、身代わりとして少女サーカスの舞台に立つことになる。
スポットライトと拍手、舞台での緊張、サン=テグジュペリの名を汚さぬ演技を心がけ、舞台をギリギリの緊張で乗り越える日々。

団長のシェイクスピア、猛獣使いのカフカ、ナイフ投げのクリスティ、歌姫アンデルセンなど、世界の文豪たちの名を冠された少女たちが代々その名を襲名して、長く人気を誇る少女サーカス。
少女という不完全で不安定な者たちが、日々変化しながら演技を続けるサーカスは、美しくも痛々しい。
それでも、彼女たちは、己の力を最大限に引き出し、観客を楽しませる。

その煌びやかさの裏でうごめく、演者とサーカスへの悪意。それは少女たちの矜持をも飲み込むかに見えたけれど、歌姫アンデルセンの「サーカスへの熱意」により、違った分岐を通ることになる。
ただ、それでも。サーカスは色々な苦難を通過しなくてはならないだろう。
でも、それでも。演者たちはサーカスを愛し、己の演技を愛し、常に高みを目指して輝いていくだろう。
その象徴が、涙雨の最後の決意だと感じました。

色々書きたいことは沢山あるんですが、まとまりがつきません。
少女たちの物語なのに、一人一人に言及できないのが歯がゆい!(とんでもなく長くなると思うので)
ですが、少女とプライドと繊細さと力強さって、本当によく似合う。
それを描ききる、紅玉さんて、ホントに素晴らしいなぁ!と思いました。

演目ごとに襲名される芸名があるんですが、それが一つ一つ、演目にピッタリとあっているんですよねぇ。ブランコ乗りは空中を舞う『夜間飛行』の著者、サン=テグジュペリ。『星の王子様』の著者でもある。
歌姫アンデルセンは人魚姫のイメージ。人魚と言えばローレライですから、人間を魅了する歌声の持ち主にピッタリ。
猛獣使いのカフカは芋虫になってしまった男の物語、『変身』。緊迫するナイフ投げには、ミステリーの重鎮、アガサ・クリスティ。全ての演者を束ねるは世界の大文豪・シェイクスピア。
その中で、パントマイムのチャペックだけは、読んでいて心当たりがありませんでした(^_^;)。後で調べたら、「ロボット」という言葉を創造した作家だということでした。なるほど、ロボット⇒操り人形でチャペックね。
他の演者はどんな文学者の名前が付けられているんだろう。ちょっと知りたいな、とも思いました。

サン=テグジュペリの名を脱ぎ捨て、旅立って行った愛涙は、この後どんなことに出会うのだろう。輝かしいだけの未来ではなく、きっと苦難にも出会うのだろうけれど、アンソニーとともに行くなら彼女にもサーカスとは違った彼女のための未来が用意されるのだろうなぁ、なんてね。
やっぱり、愛ですなぁ、紅玉さんは。

(2015.07.04 読了)

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