『ディレクターズ・カット』/歌野晶午 ◎

う~わ~。後味悪~い。
さすが歌野晶午さんだよなぁ(^^;)。
まさに、『ディレクターズ・カット』
肥大化する自己顕示欲(承認欲求)、捩くれ暴走する「脚色された事実」、救いのないラスト。
しかも、実際ありそうなディティールの連続で、読んでいてゾワゾワしました。

知り合いの若者たちを使ってやらせ動画を作成していた製作会社のディレクター・長谷見に、若者の一人・虎太郎から「刺された、アンタの仕込みだろう!」と抗議の一報が入る。
寝耳に水の長谷見は現場に駆け付け、虎太郎や周辺に取材を敢行し、警察にはまだ届けるなと言い渡す。
長谷見は、虎太郎が拾った名刺「美容師・川島輪生」をもとに、視聴率のために警察に先んじて調査を続けた結果大スクープをモノにするが、警察への通報を遅らせたため、無期停職処分を受けてしまう。
一度はTV業界への復讐を考えた長谷見だが、何度かの失敗を経て、再度TVへの復帰を目指して大勝負を打とうとするが・・・。

やらせ動画のためだけではなく、自分たちの憂さ晴らしもかねて傍若無人に行動する若者たち、非常に気分が悪いオープニングでした。
そして、職場で無視されいじめられている青年・川島(悪意あるあだ名がリンネ)の故意ではなかった犯行と、そこから暴発する鬱屈と重ねられる犯行にも、胃が重くなってきました。

基本的な視点は長谷見のものなので、彼の「視聴率第一主義」にもイライラする。彼の周辺の若者たちも、自分が良ければそれでいいという身勝手さが目立つ。

でも、どれも現代にはありがちというか、全然フィクションじゃない。そこが一番いやぁ~な感じがしましたね。
リンネのツイッターを追及して、職場や通っていたケーキ屋まで調べ上げて晒すネット民とか、リアルすぎて怖い。ネットの人的機動力(しかも大いに悪意を含んでいる)とか、TVがそれを利用してること、事実と編集のギリギリの綱渡り、・・・どれも、小説ではなく現実にあること。いやな話だけど、本当に。

長谷見がすっかり騙されていたことへのネタ晴らしだけでも、結構な衝撃だったのに、さらに追い打ちをかけてくる実況。しかも、それは実況のようでいて編集されたものであり、更には陰惨な結末を収拾させるどころかより視聴者の興味を煽るようなもので・・・。
まさに「ディレクターズ・カット」。最終章の章タイトル、「※ こ れ は 演 出 の 範 疇 で す」がほんとにもう、ゾッとする・・・。

何というか、凄くリアルタイムな作品でしたね。今、すぐそこに在りそうな、嫌な現実を描いただけ。
何の反省もない長谷見の、最後の述懐。彼なら、そう思うだろう。わかってしまう自分が、嫌だ。

(2019.05.13 読了)


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