『フーガはユーガ』/伊坂幸太郎 〇

暴力で支配する父親、貧困、同級生たちの蔑視、様々な困難を2人で耐え忍んできた双子の兄弟、風我と優我。彼らには、年に1日だけ特殊な能力が発揮できる。と言っても、自由にコントロールできるわけでもなく、大掛かりなことが出来るわけでもない。
伊坂幸太郎さん、今回はちょっとなんというか、読んでて辛かったです。
『フーガはユーガ』、ラストまで読んで切なくなってしまいました。

双子に降りかかる困難はいつまで経っても晴れることなく、双子の絆や能力を利用した実験などを興味深く読み進めていたら、忘れかけた頃に酷い仕打ちが畳みかけてくる。それでも、リサイクルショップの店長・岩窟おばさんなど、ちょっとズレているけど真っ当な人間性を持つ人との関わりで、少しずつ変わっていけた部分もあったと思います。
でも、だんだん大人になって、父親の支配からも脱出できたかと思っていたのに、それも覆される事件が起きてしまう。

ある日優我は、高杉という番組のネタを探しているTVディレクターに、自分たちの能力について、そして経験してきたことについて語り始める。
長い長いその語りの中には嘘や省略があると、前置きをして。

その高杉の正体が明らかになり、彼に拉致された優我。その状況を見ていた、双子たちのかつての同級生・ワタボコリ(本名ワタヤホコル)は、優我救出に乗り込むが、戻ってきた高杉に襲撃され・・・。
優我の体が存在する状態のままのその現場に風我が現れた時は、そしてそれが何故かが分かった時、なんとも切なくなりました。
年に一度誕生日にだけ、2時間ごとに入れ替わる、というその能力を最大に活かした、命がけの反撃。
双子だからこそ言わなくても通じ合う気持ち、今まで何度もこの能力で乗り越えてきた様々な事件、すべての集大成だった、その反撃の様子を語る優我。でも、彼の命はもう、その場にはなかった。

伊坂さんだから、爽快なハッピーエンドを用意してくれてもよかったのに・・・。でも、それはそれでご都合主義と思えてしまったかもしれません。でもなぁ。やっぱり風我と優我、双子揃った状態で、幸せになって欲しかったです・・・。

風我の恋人・小玉の悲惨な境遇には、気分が悪くなりましたね。でも、こういう嗜虐趣味の人間て、本当にいるんですよね・・・。小玉の叔父をぶちのめして、その残酷ショーの現場を破壊し、それでも追及されなかったのはそれなりに爽快だったのですが、周り回ってそのショーの現場が、のちの少女誘拐虐殺や少年監禁の拠点となり、悪事を行う人間はいつだって更に酷い悪事を行うんだ・・・ということが分かってしまい、より気分が悪くなりました。

岩窟おばさんのキャラクターは、爽やかとは言い難いのですが物語に救いを与えてくれてたのではないでしょうか。
廃品回収→リサイクルショップでの販売、というやや胡散臭い商売をしていても、真っ当な大人でした。彼女が「お金を貸してほしい」と言った風我たちに言った「お金を知り合いに借りるのは、相手との縁が切れることを覚悟したうえじゃないと駄目なんだ」や「必ずなんて断言できることはない、それを言った時点で信用できなくなる」という言葉は、本当に真っ当で、双子たちのことをきちんと考えてくれている、ちゃんと双子たちと関わってくれる大人でしたね。

それと、小中学校での同級生・ワタボコリ。当時はいじめられっ子でも、そのころからの知識を生かした職業につき、優我救出の際もその知識と経験と自作道具を使って乗り込んできてくれ、頼もしい・・・とはちょっと違うけど、双子の知り合いに真っ当で勇気もある人間がもう一人いたことに、なんだか明るさを感じました。

タイトルの『フーガはユーガ』は、双子の二人で一組で完全体、も表しているんだろうなとは思います。
2人で一人というか、だからこそこのラストだったのかもしれないけど…なんだかなぁ。
2人とも、ささやかな幸せを生きて欲しかった。ワタボコリと旧交を温めたり、生まれた双子の娘たちが入れ替わったりしないか心配したり・・・。
そこだけ、ちょっと残念。でも、物語の展開としては、そういう方がリアルなんだろうなとは思います。

そうそう。
伊坂作品で「伊藤」とくれば、『オーデュボンの祈り』の伊藤青年でしょうねぇ。ちょっと嬉しかったです。相変わらず、飄々と生きてるんだろうなぁ(笑)。案山子の名前が似てる、は確か、優午(ゆうご)でしたっけ。
あと、隻腕でストライクを取りまくる男は、あの人ですね。ちょこちょこ、別作品の人の消息が知れたりするの、大好きですねぇ。あの人たち、ちゃんと生活してるんだな、生きてるんだな、って思えて。

(2019.09.11 読了)

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