『祝祭と予感』/恩田陸 ◎

あの『蜜蜂と遠雷』のスピンオフ6編。読んでいてい楽しくて、それでいて緊張して、気付けば1日でイッキ読みでした。
恩田陸さん、ホントすごい作家さんです。
音楽を愛し、音楽に愛される人々を描いた『祝祭と予感』
どの掌編の主人公の音楽に対する気持ちの深さにも、それぞれに清々しい美しさがありました。

6編とも、本当に素晴らしかった。『蜜蜂と遠雷』というコンクールの数日を描いた作品の主要でない登場人物たちも含め、さらに掘り下げて描くエピソードの数々にワクワクしたりキリキリしたり、ずっと胸が高鳴っていた気がします。

章タイトルとその概要が帯に書かれていて、各章のあらすじについて私が書くとそれの劣化コピーになりそうですから、やめておきます(笑)。

6編の中で一番好きだったのは「鈴蘭と階段」ですね。
コンクール中、亜夜を支え続けた、亜夜の恩師の娘でバイオリン奏者の奏(かなで)が、ヴィオラに転向した後の〈自分の楽器選び〉の物語です。〈楽器選び〉と書きましたが、〈楽器に選ばれる〉物語でもありましたね。
そうか~、真の演奏者は楽器に選ばれるのねぇ・・・でも何となくわかります。というか、この掌編を読んだら、とても納得がいきました。
電話越しにそのヴィオラの音を聞いた奏の衝撃が、そのまま私にも衝撃となった気がして、思わず胸を押さえてしまいました。
運命に引き寄せられるように奏の元へたどり着いたその楽器を、初めて奏本人が演奏した時の、本人はもちろん先生たちの反応が、さらなる奏の演奏家としての飛躍を感じさせ、そして音楽そのものの広がりも感じられました。
衝撃的、と言ってもいい掌編でした。

本編『蜜蜂と遠雷』で芯の通った大人でありながら、感情豊かで魅力的だった、審査員の三枝子さんに再び会えた「獅子と芍薬」も良かったです。少女の頃から、潔い強さとしたたかさと艶やかさを持ってたのですねぇ、三枝子さん。ホント私この人大好きです。
この掌編の主人公は、そつのない大人(審査員)だったマサルの師匠・ナサニエル。三枝子との出会いを描いたこの物語、自分の才能に自信がありつつも神経質な少年であった彼が、三枝子の影響を受けて演奏者としての覚悟を持って成長するという、清々しさと力強さが、本当によかったです。

音楽への感激だけでなく、〈師匠を変える〉という策略を成功させたマサルを描く「竪琴と葦笛」も面白かったです。これにもナサニエルが出てましたね~。こちらでも、彼の意外な一面を見た気がします。

本編コンクールの課題曲「春と修羅」の作曲者・菱沼の物語「袈裟と鞦韆(ぶらんこ)」は、音楽と生活と理想の間でもがき苦しむ人、そして音楽に昇華される切なさ、というちょっと異色の物語。切なさもさることながら、菱沼と音楽の出会いが「僧であった祖父の御詠歌」というのが、素敵だなと思いました。そうか、仏教の中にあった音楽がきっかけで音楽の世界へ乗り出していった男がいて、その男が作った曲があのコンクールの課題曲になって、彼らがそれぞれの解釈で演奏して・・・・。音楽とは、不思議で素晴らしいものだな、となんだかストンとはまった気がしました。

本作でただ一つ残念だったのは、主要コンテスタントの中でただ一人本選に残れなかった明石のエピソードがなかったことです。
社会人ピアニストとして、とてつもない努力の末にコンクール参加をし、「やはり自分は音楽家なのだ」と思いを新たにしていた彼の、その後も知りたかった・・・。いつか、恩田さんが書いてくれたらいいなぁ・・・。

一気に読んで、疲労感はありながらも、なんだかとても爽やかな気持ちになりました。
私には音楽の才能はなかったけれど、聴くのは好きで、それが満たされたような読後感でした。

(2020.01.17 読了)

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