『クローゼット』/千早茜 ◎

私設の服の美術館で、傷つけられた過去から少しずつ解放されていく芳(かおる)と纏子(とうこ)。
18世紀から現代までの、様々な服飾を収蔵する美術館・・・、非常に心惹かれますねぇ!
千早茜さんの描く、繊細な手編みレースのような、美しくそして実は力強い物語。
纏子に密かに『クローゼット』と呼ばれているその美術館は、静かな佇まいの中に、情熱を秘めていたように思います。

芳がカフェのスタッフとして働くデパートに、纏子の勤める私設美術館が衣服の特設展示を行ったことがきっかけで、芳はその美術館にボランティアをしに行くようになる。
芳と纏子と晶の出会いのシーンでは晶の気の強さがかなり強烈に描かれていましたが、それ以後も纏子が関わると彼女を守るために過剰反応する晶にも、詳しくは描かれなかった心の傷があったのでしょうね。
三人が、近づいてはひるみ、もがきながらも互いを理解し癒し合い、そして自分の力で前を向いて歩いて行けるようになっていく様子が丁寧に描かれ、読んでいて救われました。

収蔵品の修復を手掛ける修復士たちの繊細で着実な技術、学芸員たちの確かな知識、そして数多ある収蔵品の煌びやかさ。静かな館内で傾けられる、ひたむきな情熱。
美しい洋服が好きだけれど服飾の歴史に関しては素人の芳が、いろいろなものに興味を持ち感心するたびに、私も同様に「素晴らしいなぁ、素敵だなぁ」と心打たれてました。
千早さんが執筆の際に取材した「公益財団法人 京都服飾文化研究財団」を検索してホームページへ行ってみたのですが、デジタル・アーカイブスに本作に出てきた〈クリノリン〉などの写真があり、大変興味深かったです。豪奢なドレスなどの服飾品の数々、着るものに拘りを持たない私でも、とても華やいだ気分になりました。
色々な博物館や美術館の展示協力をしてて、その写真も本当に素敵で、ワクワクドキドキしました。
小さなギャラリーが併設されているようですね。行ってみたくなりました。

芳と纏子が過去に出会っていて、あの事件に遭遇していた・・・というのはちょっと出来すぎな気もしなくもないのですが、纏子が最初は避けていた芳との関わりを、芳の気遣いやコルセット試着などを経て少しずつ受け入れられるようになる過程では必要だったのかな、とは思います。芳がそれを話して、無理に纏子との距離を縮めようとせず、いちばん最後に「あのクローゼットにいたの、俺なんだ」と告白する。
芳の、芯の強い優しさを感じられて、なんだかうれしかったです。

かつては、豪奢な刺繍を施した服は男性のものだったり、男性も補正下着で美しく装っていたり、・・・なんとなく知っていたけどより詳しく知ることが出来て、よかったです。
ジェンダーに囚われることが醜いだけでなく切ないのだな・・・と、学芸員・高木の言動を見て感じました。あの人のやったことは正直、悪いことだけれど、容姿が美しく雰囲気も持ち合わせる芳や晶に対してコンプレックスを持ってしまう気持ちは、理解できる気がします。
私も、服飾に限らず変な固定概念を持っているかもしれない、それは気を付けて外していきたいなぁと思いました。

(2020.02.12 読了)

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