『はなとゆめ』/冲方丁 〇

清少納言が『枕草子』を書くに至ったその背景と、彼女の宮廷出仕生活を中心に描いた、『はなとゆめ』。中宮定子の教養の高さや一族の反映を担う強さ、一条帝との深く温かい愛情、周囲の人々を盛り立て華やがせるその『はな』に惹かれ、中宮様の番人でありたいと願いながら仕えた清少納言の日々が、素晴らしかったです。
あら、私冲方丁さん読むの、初めてだったわ(笑)。

学生時代からずっと「清少納言って、何か自慢げで好きじゃないよなぁ」って思ってたんですが、数年前に「その自慢だって、心から愛して仕えた中宮定子のサロンを盛り上げるためだった」という物語(『砂子のなかより青き草』)を読んで、すっかり「清少納言もよきかな」と宗旨替えしたワタクシでございます。
本作も、彼女の矜持が美しくたおやかに描かれていて、とても気持ちが良い物語でした。

中宮定子に仕える、華やかな日々。
有名な歌人の娘とはいえ歌には自信がなく、万事に控えめにというより気が引けて前に出ていけなかった清少納言の才能を見抜き、取り立てて磨き上げ見事に花開かせた中宮定子の思いやり。
その思いやり、人柄の素晴らしさに触れ、期待に応えようと自分の持てる才のすべてを尽くして仕えた清少納言の、真摯な思い。
反して、定子を包囲していく、道長の策略の恐ろしさが、読んでいてつらかったです。

そんな辛い日々のなかでも、面白いこと楽しいことを列挙し、人や自分の失敗もくすっと笑えるおかしみに昇華し、憎げなものもユーモアを交えて数え上げる『枕草子』を描いた、清少納言。彼女の思いは「中宮様に笑って頂けたら」「中宮様の素晴らしさをさりげなく描きたい」・・・様々にあったのだろうな、と思います。

本作の主人公はもちろん清少納言で、彼女の周りの人々や出来事がたくさん描かれているのですが、中でも〈中宮定子のカリスマ性〉とでもいうのか、定子の人間的魅力の素晴らしさが際立っていましたねぇ。
一族の期待を一身に背負っているということだけでなく、帝との真の愛を育む愛情の深さ。
帝への配慮、父・道隆や兄・伊周たちとの家族との絆、清少納言たちをはじめとする身の回りの人々への優しい気配りと彼らを引き立て開花させる人材育成力、当時の女性の中でも中宮定子の能力の高さは、群を抜いていたのではないでしょうか。

本作は図書館から借りて来たのですが、付録に「書き下ろし掌編小説 物尽くし」がついていまして、学生時代は『枕草子』の「ものづくし」の面白さ奥深さをあまり理解できてなかったんだなぁ、私・・・と反省というかちょっと後悔しました。
いくつも並べることで想像が広がり視野が広がって行く、その面白みを風雅さを、そしてそうすることで華やぎという格を作り上げることが、この掌編に描かれていました。
形や伝統にとらわれず、新鮮な感覚で美や面白みを求めることの大切さを清少納言に与えてくれた中宮定子。
今まであまり気に留めていなかった人ですが、本作で私は大好きになってしまいました。

(2020.06.01 読了)


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