『楽園の烏』/阿部智里 〇

阿部智里さんの〈八咫烏世界シリーズ〉、第2部開始!です。
1部で描かれた山内という世界とその危機、2部ではどう展開しているのか?と思っていたら、『楽園の烏』というタイトル。
なんだか、意外なネーミングだと感じられました。

タイトルにに微妙な違和感を覚えながら読み始めると、だんだんにその違和感の正体が明らかになって来ます。
気まぐれな養父から「荒山」を相続した青年、安原はじめ。養父は正確には死亡したわけではなく、失踪から7年を経て死亡認定され、その遺産として彼に残されたその山を巡って、入れ代わり立ち代わり「荒山を売って欲しい」という者たちが現れる。彼らの存在にキナ臭さを覚えていたはじめの元に「幽霊」と名乗る美女が現れ、急激な逃避行が始まる。
彼女に言われるがままに箱詰めになったはじめは、トロッコに乗せられとある場所に到着。
そこは、人界ならぬ「八咫烏たちの世界=山内」であった。
その八咫烏の代表としてはじめに交渉を持ちかけてきたのは、〈雪斎〉・・・私たち読者の知る〈雪哉〉の20年後の姿であった。

最初はね、おお~雪哉だあの雪哉だ、なんて喜んでたんですけどね。
猿との闘いの最後に「弥栄」を叫んだ雪哉のやるせなさからするに、「山内にどんな苦渋の日々が流れたんだろう」「雪哉がこの地位に上り詰めるまでに、どれだけの困難や苦悩があっただろう」と、なんだか悲しくなってくるわけですよ。
しかも、雪斎は取り澄ました食えない人物として、描かれる。
あ~、冷静に山内を思うがゆえに冷酷にならざるを得ず、もともとの非情さに磨きがかかっちゃった感じなんですよねぇ。
本人も、開き直った風ではあったけど、心の奥底では傷ついたりしてるんじゃないかと、思ってしまいました。

20年の間に、何があったんでしょうね。
ところどころの描写からわかるのは、第1部で「真の金烏」と称されていた奈月彦はすでにおらず(多分ただの退位ではない)、若き金烏を雪哉が冷酷に懸命に支えているということ。
学生時代に共に切磋琢磨した千早とは、袂を分かっているということ。
地下街殲滅に強引な手段を用い、男たちは馬にされ、女たちは薬草園で労働させられ、老人・子供・体の不自由なものたちだけが地下街を細々と守っている態をとっているように見えながら、実はそれも中央によってコントロールされたものであったこと。

タイトルにある『楽園』とは。花街の女たちも、薬草園で使役されている女たちも、「ここは楽園だ」というのだけど、本当だろうか。
彼女たちは、表面上を取り繕っているように感じられる。すべて管理され、やんわりと自由を奪われていても、そこは楽園なのか。
はじめがかつて子供のころに見たTVの、「楽園を語る少女」のエピソード。その続きと自らの経験を語る、はじめ。
雪斎が管理し治めている山内の欺瞞。

はじめは「山内を見たい」と主張し、頼斗を伴って花街や地下街、地下街から連れ出された者たちの使役場などを巡る。
地下街の長の後継者である少年・トビの取った行動すら、雪斎の計算内であったこと。
はじめの養父の正体とその思惑。
人間界に戻ったはじめと、それに付き従った頼斗。
そして、頼斗の残した、符牒。

頼斗の決断は、それでよかったのかなぁ・・・。
というか、そこまで多分、雪斎は織り込み済みだったんじゃないでしょうか。怖ろしいほどの、先を読む能力ですよね。
でもね、なんとなくなんですけど、はじめも頼斗の真意を薄々悟っているんじゃないかなって思います。
最初の頃は、はじめのユルさにあまり好感を持てなかったんですけど、だんだん彼の中にある鋭さや頭の良さ、そして人としての深みが分かってきて、今後もこの物語に関与していって欲しいと感じるようになりました。

いやしかし、第1部でかなり雪哉に肩入れしていた私としては、辛いなぁ。
辛いがゆえに、「雪哉(私の中では雪斎ではなく今でも雪哉)も、苦渋の上に決断したことなのであってほしい」「冷徹に山内を守るためと行動していても、悲しみを押し隠しているのだ」なんて、勝手なことを思ってしまうんですよねぇ。
実際は、わかりません。
第2部がこれから展開していく中で、その答えが判って行くのだろうと思います。
ですので、やはりこの物語を読み続けたいですね。

(2021.04.14 読了)

 ※とうとう、ウェブリブログもトラックバック機能が無くなってしまいました(T_T)。
ブロガーさんにご許可頂いたレビューをご紹介します
☆おすすめです!☆


水無月・Rの〈八咫烏世界シリーズ〉記事
『楽園の烏』 〇 (本稿)


"『楽園の烏』/阿部智里 〇" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント