『作りかけの明日』/三崎亜記 ◎

今までの三崎亜記さんの作品を、緩やかに美しくまとめて織り上げるかのような作品でした。
本作『作りかけの明日』は、三崎さんがかつて描いた『刻まれない明日』で繰り返し語られた「10年前の事件」で何があったのかを記す物語。
あの時何故、こんなことが起こったのか。何故、消失した人々はラジオ局にリクエストを送り、図書館分館で本を借りているという記録が残るのか。
すべての答えが明確に差し出されたわけではないけれど、様々な謎が明らかになってきました。

いやしかし、ホント【世界設定ノートを見せて欲しい作家さん】№1なんですよねぇ、三崎さんって。
本作で、今までに名称や現象だけが語られ、その理由どころか全容すらわからなかったことが、いくつかは分かってきてるんですが、それでもまだまだわからないことがいっぱいです。
そして、どんどん内容が難しくなっていく・・・(^^;)。
何度も、自分で書いた『刻まれない明日』のレビューを見返し、トドの部屋、Todo23さんの 三崎亜記の「この国」(地図&考察メモ)
と首っ引きでああでもない、こうでもないと考えながら読んでいたため、非常に時間がかかりました。
※Todoさんの考察は、本当に素晴らしいです!ただし、三崎作品をたくさん読まれて複合的に考察されているため、この作品だけでなく他作品のネタバレになってしまう可能性もありますので、その点はご注意ください。

本作はタイトルからして『刻まれない明日』との関係があるのだろうなと思いつつ、特に前情報を集めないまま読み始めました(私は基本そんな感じで物語を読むことが多いです)。
物語冒頭から、よく知った名前・事象(ただし詳細は理解できていない)が頻出しつつも、何やら不穏な雰囲気で秘密会議が始まり、「事故」が起こり、そして10年の時が流れて、新しい事態が始まる。
思念供給公社から逃走を図るハルカ・カナタ、公社で警備や保全を担当している黒田さんとその妻のクロダさん、公社でプラントの管理をする南田さんとその息子の駿くん、南田さんの夫で公社と対立する管理局の泉川博士、礼拝所の再起を目指す早苗と浩介、地主で能力者の瀬川さん、「事故」の暴走を抑えた予兆のキザシの意思、自らは知らないまま暴走の「蓋」となっているサユミ・・・その他たくさんの登場人物のそれぞれの視点からその状況を描く短い物語が紡がれていきます。
正直言って、あまりにも人数が多く、そして本作より10年前の事故・今回の事件・そして10年後に起こるであろう『刻まれない明日』の日々を合わせて考えながら読むのは、大変でしたし、時間も非常にかかりました。

それでも少しずつ、私が理解しきれない部分を飲み込み保留しながらも読み進めていって、物語の終わりを迎えた時、三崎作品を読んでいつも感じる〈遠くを旅してきたような感覚〉・・・郷愁と淋しさと心地よい疲れをもった充実感・・・にとても満足しました。

先ほどもくどくど書きましたが、とにかく、エピソードが多く、それぞれの関係性が現在・過去・未来を縦横無尽に複雑に絡み、一人ひとりがちゃんと〈生きている〉物語なので、あらすじが書けません。
なので、今回は自分の思った事だけを書くので、この記事はレビューですらないかもしれないです。すみません。

今回、今までの作品でさらっと書かれてきた〈思念〉というものが「事故」の原因として取り上げられているのですが、それでもよくわからないものなのですよね。
人の中の〈思念〉が余剰としてあり、それを国が抽出・精製し、再供給している。ということらしいのですが、それって何かしら〈人間を管理する〉ということじゃないのかな、と思えるのだけど「国際的な規約」があって全世界的にそれは行われているらしい。
何故わざわざ抽出した〈思念〉を再供給するのか?それはどういうメリット・デメリットがあるのか?その辺はまだ描かれていません。
かつて『失われた町』を読んだ時から〈三崎作品において人は既に精神体なのではないか・或いはその過渡期にあるのではないか〉という推察をしていたりするのですが、もしかすると方向性がズレてはいるものの、多少そういうことも含んでいるのかもしれないと思うと、ちょっとドキドキしますね。
精神体への移行、ではなく人から〈思念(精神?)〉を抽出してそれを利用する世界・・・?
ますます、三崎作品から離れることが出来なくなりそうです(笑)。
なんせ、まだまだ分かっていないキーワード、理屈、事象、沢山あるのに、きちんと三崎さんの作品の中では一つの世界として矛盾なく成立しているのですから。楽しみです。読むのにすごく苦労しそうだけど。

(2021.09.20 読了)

※とうとう、ウェブリブログもトラックバック機能が無くなってしまいました(T_T)。
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