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zoom RSS 『草祭』/恒川光太郎 ◎

<<   作成日時 : 2009/02/03 22:48   >>

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恒川光太郎さんの描く異界。
それは、怖ろしくも美しい、そしてどこにでも存在していそうな、現実世界と微妙にズレた、怪しい世界。
恒川さんには、彼岸と此岸の境目が見えているに違いない、と思う。その常人には感知できない境界線を知っているからこそ、あの世界を表現できるのだろう。
本作『草祭』も、その恒川さんの本領発揮、引き寄せる異界と溶けゆく現実が、儚くも幽玄な光景を描きだしてゆきます。
いざ、真の和製ホラーの世界へ・・・。

いやぁ〜、ホント何というか、現実世界に忍び寄る異界、振り返ったらそこに底なしの闇がありありそうな、怖ろしい世界を垣間見ました。
・・・恒川さんは、すごいわ。怖ろしすぎる・・・。簡単にDNAが反応する〜とか、言いたくないんですが、でも日本人の中にあるかそけき闇の世界の感覚みたいなものが、呼応するんですよ。もしかしたら、海外の方にはわからない世界かも・・・。

とある田舎町、美奥(びおく)。いわくありげな伝承の残る、普通の田舎町。・・・のはずだったそこに、異界の入口が開く。読者は、既に第1章から、取り込まれている。

「けものはら」
行方不明になった同級生は、あの野原にいた。「のらぬら」のいた、獣たちの幻影が見える、あの野原に。同級生は、その野原から出ることができない。母親を、亡きものにしたから。
「屋根猩猩」
屋根の上の獅子舞。町の中の特に古い一角を守る存在。そして、私の順番が回ってくる。
「くさゆめがたり」
美奥の発生の物語。山人とは怖ろしきもの。常人には、見ることすらできない「オロチバナ」。「クサナギ」という薬。全ては、あの妄執からはじまったのか。
「天化の宿」
魂を奪われるかのような、魅惑的なゲーム。ゲームの素質のあった少女。少女が選んだ結末とは。
「朝の朧町」
現在の美奥につながる物語。また別の街を内包する美奥。

あらすじ・・・無理ですな。それぞれ、少しずつ登場人物や、キイワードとなる物事が重なりながら、美奥という土地の物語が繰り広げられてゆく。
それぞれ、語る人物たちの立場は全く違う。美奥に囚われた友人を語る中学生。美奥の古い町並みを護る少年と出会い、その後継ぎとなった少女。美奥を作った山人の少年。苦解きのゲームに命を吸い取られそうになる少女。美奥の物語を記録するよそ者の女性。
だが、彼らは美奥のほんの一端しか語らない。

美奥には、まだ謎があり、普通の田舎町に見えても妖しき気配を、滲ませている。ふと、いつもの通りから一本外れたら、そこには何かがズレた世界が広がっている。そして、元の世界に戻れるか否かは、美奥という土地の意思次第なのではないか。いつ、誰が、その異界に吸い込まれるのか、そのための条件があるのか否かもわからない。
たいして大きくもない町のはずが、無限に広がる世界となる、その怖ろしさ。
異形の者が跋扈し、生物は別のものに生まれ変わり、いつしか自分も別の存在に変わってしまいそうな、危うい境界。忍び寄り、いつの間にか捕らわれてしまいそうな、異界。
うわぁぁ〜、こっ、怖いよ〜ッ!

ほぼ現代の物語である4篇に対して、「くさゆめがたり」だけが大分時代をさかのぼる。
いかにして、美奥が生まれたのか。「山人」である少年が、作り出した「クサナギ」という、恐るべき薬の効果。美しい山奥によく似た場所、美奥。
私は、この「くさゆめがたり」が一番好きだな。
叔父を薬草で殺してしまった私。私を拾ってくれた、僧侶。僧侶の家族。私がとった行動で、僧侶の娘は殺されてしまった。村に居辛くなった僧侶とその孫。途切れた命を再生するために、禁断の薬草「オロチバナ」を使った、妙薬を作り出した私。だが、再生された命は、全く違う生き物に生まれ変わり。そして思い出してしまったのだ。叔父を殺した本当の理由を。そこから生まれた狂気は、村に「クサナギ」を注ぎ込むことになった。
美しい山奥。憧憬をもって眺めていた一家の崩壊。村は美しい山奥に変わる。
そんなマイナスの循環が、怖ろしくも美しい。

入り込む、或いは迷い込むのは簡単でも、そこから現実世界へ戻ってくることは難しい、異界。
そんな恒川ワールドを、今回も堪能いたしました。素晴らしかったです。

(2009.02.02 読了)
草祭
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著者:恒川光太郎出版社:新潮社サイズ:単行本ページ数:260p発行年月:2008年11月この著者の新


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『草祭』 by 恒川光太郎
デヴュー作『夜市』以来その独特な雰囲気で異界をかいま見せる危い現実を描き続け、「恒川ワールド」とされる恒川光太郎氏の新作である。 『雷の〜』で少し肩透かしを食った気がしたものだが、今回の『草祭』は今までの2作以上に「怖い」要素が加わって、デビュー当時の恒川氏らしい(と私は思っている)世界が広がっている。 ...続きを見る
■空蝉草紙■
2009/02/04 10:04
草祭(恒川光太郎)
「美奥」という土地を舞台にした連作短編集。 ...続きを見る
Bookworm
2009/02/05 13:21
「草祭り」恒川光太郎
草祭クチコミを見る ...続きを見る
本のある生活
2009/04/20 20:16

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは!
またもや、恒川ワールドを堪能したぁ〜とため息をつきたくなるような作品でしたね。
読んでるうちに、いつの間にやら自分も美奥に迷い込んでしまったような錯覚に陥りました。
すずな
2009/02/05 13:23
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
怖ろしくも美しい物語。いつの間にか迷い込む異界。
恒川ワールドは、ホントに響きますよねぇ〜。
こういう作風、大好きです。
水無月・R
2009/02/05 21:11
恒川さんの世界、すごいですよね。私も、日本人ならば呼応してしまう何か、無意識の中に眠っているものに触れる何かがあるように思います。
美奥にはすごくひかれます。入るのは怖い、でもちょっとのぞいてみたい・・。ついそんな風に思ってしまいます。
june
2009/04/20 20:16
juneさん、ありがとうございます。
いつの間にかどこかと繋がってしまう異界、彼岸と此岸のあわいにある、その異界の入り口。
恒川さんは、ホントにすごいと思います。
これからも、素晴らしい世界を堪能させてほしいですよね♪
水無月・R
2009/04/20 21:38

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