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zoom RSS 『白蝶花』/宮木あや子 ◎

<<   作成日時 : 2009/03/09 23:23   >>

驚いた ブログ気持玉 1 / トラックバック 6 / コメント 12

宮木あや子さんの、閉塞された世界の女性の、狂おしいまでの生き様を強く描く美しい物語は、デビュー作『花宵道中』でも『雨の塔』でも、ままならぬ想いを氾濫させつつ、静かに満ち溢れていました。
本作『白蝶花』も、戦前から戦後を通して、強く激しく恋に生きた女達の4つの物語。

うわぁ〜、また感傷的になっちゃいますよぅ!「女による女のためのR-18文学賞」デビュ―であっても、前面に出てくるのは官能的なシーンではなく、ままならぬ想いに翻弄され、閉塞された世界(場所や立場や時代など)で、狂おしくも強く生きてゆく女たちの、切ない生き様です。

とにかく胸が詰まるような、想いの強さ。
容貌の美しさだけではなく、孤高を保つ気の持ちようの凛とした美しさ、「死」ではなく「生」に活路を見出す、心の芯の強さ。
読んでいて切ないのに、清涼で清澄な空気に満ち、力強さを孕む物語。
宮木さん・・・素晴らしいです!大好きな作家さんなので、大事に大事に読みたい、と第3章「乙女椿」に入るまではゆっくり読んでいたのですが、もう「乙女椿」の冒頭で箍が外れてしまいました。
過去をを呼び起こす、一通の手紙。紡がれる記憶。記憶は奔流となって、読者である私を巻き込み、物語の過去へと流れてゆきました。

有馬温泉の芸妓から落籍され、やくざ者に囲われた菊代は、旦那である男の部下と許されない恋に狂う。二人の所業が知られ殺されそうになって、確執のある妹の助けを借り、有馬を出奔する。(「天人菊」
父の事業失敗で巨大財閥総帥・章太郎の愛人にされてまった泉美は、その男の息子・吉明と巡り合い、心を翻弄される。思想犯の疑いをかけられた吉明との別れの時初めて体を合わせ、吉明をを逃がして、授かったかも知れない命のために、章太郎を受け入れる、泉美。(「凌霄葛(のうぜんかずら)」
福岡県知事・漆間の家庭に女中として赴いた千恵子は、そこで令嬢和江の孤独を知る。戦死した兄、戦場に赴く書生達、残された女たちのやり場のない想い。父の病気で実家に戻ることななった千恵子は、帰郷した酒田で書生の一人・政吉の子を宿したことに気付く。実家を抜けだし、居酒屋を開く女・菊代の元に身を寄せるが、家族の追手がかかり、東京で店をもっている菊代の妹・雛代を頼って上京。漆間家本宅を訪れ、和江との再会を果たそうとするが、妊娠を知られ、拒否される。大空襲の夜、和江を助けて避難した千恵子。その後政吉の母・泉美と同居し、無事に子供を産み、政吉の死を知らされる。数十年の時を経て、和江からもたらされた、手紙。千恵子は和江を見舞いにゆく。(「乙女椿」
老いに忍び寄られ、記憶の不確かになった和江が、夫・正文と知り合った日々を回想する。父との心痛むすれ違い。結婚に夢を持てず、断った縁談相手の、その弟。醜聞となるその付き合いに、それでも胸は焦がされ、父の反対を押し切って、結婚し。遥かな時を超えて思うのは、かつて仲を違えた女中の千恵子のこと。混濁する記憶の向こう側から、千恵子の声がする・・・。(「雪割草」

たおやかに美しく、それでいて凛として強い、女たちの情熱。
女性が表舞台に出ることは許されないあの時代の、閉塞感。その中で、激しい恋情に突き動かされ、あるいは執着の想いに絡め獲られながら、強くしたたかに生きてゆく女たちの美しさ。
安易な「死」ではなく困難な「生」を選び、愛した男の子を一人ででも産み育てようという、一途な意思の固さ。

感情移入してしまって、「乙女椿」の政吉の手紙や、「雪割草」の和江の手紙に、涙ぐんでしまいました。女性達の一途な思いもさることながら、男性達の誠実さ思いの強さにも心をうたれましたねぇ・・・。

「乙女椿」の泉美が愛人になった「三島家」は、『雨の塔』の「三島家」でしょうか。
意外な所に、作品間のリンクがあるのかも知れないと思うと、ちょっとドキドキしますね。

一番好きになったのは「雪割草」ですね。過去の父の非情を恨み、頑なになっていた和江の心を解きほぐし、相思相愛となった正文の心の広さ、とても素敵でした。和江の入院した施設を訪れ、時に昔の書生、時に父親と間違われても、豊かな愛情をもって和江を受け入れる、その優しさに、心をうたれました。
苦悩する娘時代の和江。目覚めれば年老いて、うまく現在を認識する事が出来ないときもある。それでも、和江も正文も、お互いを穏やかな愛情をもって想い合っている。とても、美しいと思います。

混濁する和江の記憶のかなたから、聞こえてきた千恵子の声は、現実だったのでしょうか。そうだったらいいのに、と私は思います。千恵子は、「乙女椿」の終わりで「メアリーマグダレン」という薔薇の棘を落とさずに、和江の元へ赴こうとしています。間に合ったのか、間に合わなかったのか・・・、物語には描かれていません。
それでも、お互いに長い間存在を意識していた二人が、一瞬でもまみえることができたらいい、と願わずにはいられません。

(2009.03.09 読了)

白蝶花
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著者:宮木あや子出版社:新潮社サイズ:単行本ページ数:261p発行年月:2008年02月この著者の新


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タイトル (本文) ブログ名/日時
『白蝶花』 by 宮木あや子
デビュー作『花宵道中』で見事に花魁の妖艶かつ哀しき人生を描いた宮木あや子。宮木氏が今回描いたのは太平洋戦争を挟んで生き抜いた女たちの半生である。 ...続きを見る
■空蝉草紙■
2009/03/10 09:11
「白蝶花」 宮木あや子
白蝶花宮木 あや子 新潮社 2008-02売り上げランキング : 11796Amazonで詳しく見る by G-Tools 内容説明 昭和19年、福岡県知事の屋敷に奉公にきた千恵子。華やかな博多の街、美しい令嬢・和江との友情、そして初めての恋。しかし戦争の足音は、千恵子のすぐ背後に迫っていた…。恋に命をかけた女たちを描く純愛官能ロマン。 ...続きを見る
今日何読んだ?どうだった??
2009/03/15 11:49
白蝶花 〔宮木あや子〕
白蝶花宮木 あや子新潮社 2008-02売り上げランキング : 146136おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools ≪内容≫ このまま二人でその波に飲まれて引きずり込まれたなら、時をとめることができるだろうか。別れずに済むのだろうか。 昭和十九年、福岡県知事の屋敷に.... ...続きを見る
まったり読書日記
2009/03/16 20:44
白蝶花 / 宮木あや子
戦前・戦中・戦後の話。「花宵道中」 「泥(こひ) ぞつもりて」同様、話のつなげ方がうまいわー。時代は変わっても変わらない想いとか、自分ではどうしようない環境の中で強く生きる力とか、宮木さんの魅力満載の一冊だった。 ...続きを見る
たかこの記憶領域
2010/06/27 12:25
白蝶花(宮木あや子)
うわー面白かった! 短編集だと思っていたら連作集で、読み進んでいくと全てのお話が繋がっていって、そういう部分でも楽しめた作品でした。 ...続きを見る
Bookworm
2011/06/06 15:46
「白蝶花」 宮木あや子
白蝶花 (新潮文庫) 傾いた家のために財閥の妾となった泉美、貧しさ故に芸妓として売られた姉妹の菊代と雛代、奉公先で書生の子どもを身籠る千恵子、豪奢な屋敷で愛に飢える県知事令嬢の和江。 人生を選びとることも叶わず、女は明日死ぬかも判らぬ男を想うしかなかった時代──戦前から戦後の不自由さを吸い上げ、荒野の日本で美しく野性的に生を全うした彼女たちが咲かす、ドラマティックな恋の花。 ◆◆◆ 女性が今よりも生きにくかった時代 読む度に惹きこまれる宮木さんの小説。 大正から戦後にかけてを強く、逞しく生き抜い... ...続きを見る
BOOKESTEEM
2016/08/31 22:32

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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
トラバありがとうございました。コメントも。
最近めっきり読書時間が仕事に削られなく思いをしているのでこちらに伺う時間もままならず・・・でも相変わらず私とは比べ物にならない細やかで豊かな書評、感服です!私もそれこそ彼女たちみたいに凛々しい書評を書きたいものです。
空蝉
2009/03/11 12:16
空蝉さん、ありがとうございます(^^)。
お忙しい中、逆に申し訳ないです(^_^;)。
いえいえ〜、もう内容とか感傷的すぎなんですけどね・・・。
宮木さんの描く女性は、たおやかで芯が通っている感じがして、すごく素敵ですよね。
私も、すごく憧れます♪
水無月・R
2009/03/11 21:39
水無月・Rさんこんにちは。
相変わらずの素敵な感想うっとりいたします。本当に同じ本を読んだのか!?と自分を疑うほどまでに^^;この本も素敵だったな…とは覚えているものの、こちらを読んでも思い出せないことも多かったりしますし…あわわ。
「雨の塔」とリンクしてるかも?とか、全然気づきませんでした!水無月・Rさんすごいです。そのおどろきを、気持ち玉で表してみました^^
麻巳美
2009/03/15 11:52
麻巳美さん、ありがとうございます(^^)。
いえいえ〜、相変わらず感傷的で、お恥ずかしい限りです(笑)。
『雨の塔』は、私的には宮木作品No.1なので、あ・・・アレは?!と思ったのですが、どうでしょうか。
もしかしたら今後、各々独立していると思ってた宮木作品での、リンクが見られるかもと思うと、嬉しくなってしまいます。
気持ち玉、ありがとうございます〜!
水無月・R
2009/03/15 22:03
章タイトルの花のごとく、凛とした美しさを持った女性たちの生き様が胸に響きましたね〜。
切なさに胸が締め付けられながらも、これほどまでに一人の男を思うことが出来る彼女たちが羨ましくなっちゃいました。
エビノート
2009/03/16 20:43
エビノートさん、ありがとうございます(^^)。
叶わない想いを切々と謳いあげながら、静かに沁み入る感がとても素敵でしたね。
どの章の女性も、きりっとしたスジの通った強さをもっていて、素晴らしいと思いました。
そうですね〜、一途に思うことのできる彼女たち(そしてその対象)に憧れますよね♪
水無月・R
2009/03/16 22:33
水無月・R さん こんにちは。

>「乙女椿」の泉美が愛人になった「三島家」は、『雨の塔』の「三島家」でしょうか。
私もそう思いました。こんなところでリンクが!と思うとにんまりしました。

それにしても、宮木さんの描く女性たちは素敵ですね。時代は違えど、凛としたところ、すごくあこがれます。
たかこ
2010/06/27 12:32
たかこさん、ありがとうございます(^^)。
『太陽の庭』で〈三島家〉よりも大きな存在があることを知って、更に泉美の思いの強さを知りました。
泉美と泉水(永代家最後の?当主)という同じ読みの名前もちょっと、気になるリンクですよね。
何だか、ドキドキします♪

宮木さんの描く女性の強さ、心映えの美しさは、本当に素晴らしいです。
水無月・R
2010/06/27 23:22
やっぱり宮木さん好きだなーっ!と思いながら読みました。
か弱そうでいながら、恋の為にはなりふり構わず必死になる強さを持った女性たち。水無月・Rさんも書かれているように、彼女たちの凛とした強さ、その姿が眩しく、そして胸に迫りました。
短編集だと思ってたら連作集で、そういう構成もかなりツボでした!
すずな
2011/06/06 15:51
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
宮木さんの描く、切なく狂おしい世界が、とても美しいですよね〜!私も、本当に大好きです(こちらの路線は(笑))
恋のために死を選ぶのではなく、生き抜くことを選んだ彼女たちの強さ、とても素晴らしいと思います。
あちこちでつながる連作短編という形も、よかったですよね♪
水無月・R
2011/06/06 16:11
こんばんは!私、ついこの間読んだばっかりなのに、水無月さんの感想読んでいたら再び読みたくなったという…。この世界観、いいですよね。
そして、「雨の塔」…!私の読みたいリストの筆頭ですが、まさかこの作品とリンクがあるとは。。!宮木さんに限らず、他作品とのリンクは、ほんと嬉しいですよね。
「雪割草」、よかったですねぇ。あんな優しい結末が待っているとは…こちらまで温かい気持ちになりました。切ないけど温かい。なんだか、いいですよね。
yoco
2016/08/31 22:32
yocoさん、ありがとうございます(^^)。
『雨の塔』は、いまだに私の中の〈宮木作品ナンバー1〉です。(『校閲ガール』などのはっちゃけ系も好きなんですが)
ぜひぜひ、宮木さん産の「ままならぬ想いあふれる世界」をご堪能くださいませ!

「雪割草」の和江を支える正文の誠実さ、混濁した記憶ながらもずっと再会を待っていた和江とそれに応えるだろう千恵子、優しくて、切なくて、暖かくて・・とても美しい物語でした。
水無月・R
2016/08/31 22:45

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