蒼のほとりで書に溺れ。

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zoom RSS 『英雄の書』上・下/宮部みゆき ◎

<<   作成日時 : 2009/07/01 22:00   >>

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水無月・Rは物語読みだから、本や図書館(図書室)及び本屋、そしてもちろん物語に関する物語に、とても心惹かれる。
そして『英雄の書』もまた、心躍る展開としっかりした世界観、主人公の少女の成長、色々な面で私を惹きつけた。
宮部みゆきさんの描く、物語が循環する世界。

上下二巻とも300ページ越えの、超大作である。M市図書館で20人ほど順番待ちをして、やっと手にしたはいいが(私の後にも15人ほど待っている)、表紙にやたら迫力があって、ちょっとビビってしまった。
が、読み出せばそんな気持ちはどこへやら、ぐいぐいと世界に没頭してしまう。

「英雄」と「黄衣の王」は分かつことの出来ない、表裏一体のもの。すべての物語は、輪〈サークル〉を循環し、いずれ「無名の地」に回収されてゆく。そしてその「無名の地」には「英雄」が封印されている。英雄の暗黒面が無名の地の獄を破りサークルに溢れるとき、そのサークルには戦いが満ち溢れる。
その黄衣の王が獄を破るには、器たる人間の憎悪が必要で、その最後の器になってしまったのが、主人公・友理子の兄・大樹であった。
友理子は、黄衣の王に取り憑かれ罪を犯した大樹を探す、長く危険に満ちた旅に出ることになる。印を戴く者〈オルキャスト〉として。
無名の地で従者となった元無名僧・ソラ、若い辞書で友理子の魔法によりネズミの姿になった・アジェ、英雄の写本を狩る〈狼〉のアッシュ、そしてユーリと名を変えてオルキャストとなった友理子の4人が、大樹を探す旅を続けるうちに、ユーリに隠されていた真実が明らかになってゆく。

うう〜、あらすじを書こうとすると、上手いこと纏まりません。4人は最初から一緒だったわけじゃなく、途中参加型(アッシュなんて下巻から登場)だし、大樹に取り憑き黄衣の王の破獄させる鍵になった『エルムの書』は、アッシュの世界である『ヘイトランド年代記』という物語の中の書物だし、大体最終的に黄衣の王を封印するのはユーリの役目ではなくなるし・・・。

ただ、友理子と言う小学校5年生の女の子が、家族を思い兄を思って、勇気を振り絞って探索の旅に出る、その潔さ、途中でくじけながらも立ち直り、まっすぐに進もうとする心の強さが、とても清々しかった。
使命を果たし、旅を終えた友理子は、強く優しい心の持ち主となった。

物語の展開上、下巻の半ばを過ぎてもまだ黄衣の王と向き合うことなく、どうやって黄衣の王を無名の地に封印するのか、そんな大きな戦いを残り少ない中でどう収めるのだろうか、という不安があったのだが、最後の方になって、ユーリの本当の使命が知らされる。
彼女がなすべきは、破獄した黄衣の王をとらえ封印することではなく、〈なり損ないの無名僧〉を浄めることであったと。なり損ないを、正しい無名僧に浄化したユーリはの額から紋章が消え、彼女は現実世界へ戻ってゆく。

そして、エピローグで友理子は《狼》の後継ぎとなる。きっと、《オルキャスト》であった友理子なら、狼として、英雄の書の写本を狩ることが出来るだろう、と。友理子が狼になった時、きっとアジュにもアッシュにも再会できる。この物語で封印出来なかった、或いはまた別の機会に破獄し封印されることになる「黄衣の王」と対峙することもあるのではないだろうか・・・。

何度も語られる、「英雄と黄衣の王は一つの事象の表裏である」ということ。なんとなくではあるけれど、理解できたように思います。事象はただ一つの事象だけれど、それを見る人間によっては善にも悪にもなる多面体であり、表が力をつければ裏にも力がつき、物語という嘘(フィクション)が正邪の両方を育て、「ひと」に廻ってくる・・・。(←うわぁ、全然説明になってないよ)
願わくば、その事象を「善」としてとらえ「正」として育てたい・・・と思いました。
誠実に、強い心をもって。
憎悪が、怒りが、黄衣の王を解き放つ鍵の一端となる。そんな事には、ならないように。

ちなみに「あとがき」で宮部さんが「クトゥルフ神話」と書いてらしたのは、「クトゥルー神話」のことだと認識しているのですが、栗本薫さんの『魔界水滸伝』シリーズもこの神話に拠るところがあったと思います。少しだけ、読んだことがあるのですが、とても禍々しいものでした。 

共感した!でもないし、感激した!でもないのですが、「物語」の底力を見せつけられた、力強い、印象深い物語でした。

後で気がついたんですが、カバーが上下巻でひとつながりなんですね。で、上巻の右端(折り返し部分)にアジュ(ネズミ)がいて、下巻の左端にアッシュの双剣が地に刺さっている。きっといつかここに、銀の牙のペンダントが加わることでしょう。そんな風に物語の終わりを自分なりに広げてみたくなりました。

(2009.06.30 読了)

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著者:宮部みゆき出版社:毎日新聞社サイズ:単行本ページ数:356p発行年月:2009年02月この著者


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【英雄の書】 宮部みゆき 著
図書を巡る物語である。ある意味、図書館内戦争か!?  まずは来訪記念のポチッ[:ひらめき:] [:next:] blogRanking[:右斜め上:] 【あらすじ】【上巻】お兄ちゃんが人を刺すなんて・・<英雄>に取りつかれた最愛の兄を追って、少女は物語の世界に降り立った。そこで彼女は、すべての物語が生まれ帰する一対の大輪を前に、恐るべき光景を目にしてしまう―。&amp;nbsp;【下巻】<英雄>を捕え兄を連れ戻すべく、数多の物語を旅する少女の過酷な追跡が始まる―。現代を合わせ鏡に、いまを生きる私... ...続きを見る
じゅずじの旦那
2009/07/03 21:52
英雄の書(上)(宮部みゆき)
宮部さんの新しいファンタジー。 読むのが楽しみではありましたが、それよりも続編を書いて欲しいファンタジーがあるんですけど・・・という、複雑な気持ちも無きにしも非ず(笑)複雑ですなぁ。 ...続きを見る
Bookworm
2009/09/05 09:06
英雄の書(下)(宮部みゆき)
・・・え?えぇっ!?そうきたか!・・・あ〜そんなぁ。。。 と、ちょっと予想外でガッカリなラストでした。救いがないことはないけど、ファンタジーでそういうラストが待ってるんなら、あまり読みたくなかったよー;;;と思っちゃいました。 ...続きを見る
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2009/09/05 09:07
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは♪
宮部さんは、すごいですよ。ほんとに、すごい(ボキャ貧)この超大作が、一気に読めてしまうのは、さすがの筆力です。クトルゥフ神話よりも、宮部さんの頭が生み出す幻想のほうが、私は自由で凄いと思います。この有り余る筆力で、久々に短編なぞを読みたいと思う私は、贅沢ものなんでしょうね。
ERI
2009/07/02 00:52
ERIさん、ありがとうございます(^^)。
いえいえ、圧倒的な迫力の物語の前には、私もろくなことが言えなくなってしまいます。
宮辺さんはあまり読んでいないのですが、濃厚な短編、読んでみたいような怖いような・・・(笑)。
水無月・R
2009/07/02 21:34
子供の素直な気持ちが、心地よかったです。
疑問をただ流すだけになった今、とても「オルキャスト」にはなれそうにないです(笑
じゅずじ
2009/07/03 22:00
じゅずじさん、ありがとうございます(^^)。
書物たちも言っていましたが、子供でなくては〈オルキャスト〉になれないよなぁ・・・と感じました。
そんな成長物語でもあり、壮大なファンタジーでもあり・・・でしたね。
ぐいぐいと惹き込まれる、面白い物語でした!
水無月・R
2009/07/03 22:07
読み応えがあって、水無月・Rさんが書かれているように、「物語」の底力を見せつけられた作品だとは思います。思いますがっ!ファンタジーなのにこの結末はちょっとねぇ…と思ってしまいました^^;や。面白かったんですよ!なので、夢中で読んでおいて、こんなこと言うのは矛盾してると自分でも思うんですけどね(笑)子供にはちょっとお勧めできない、大人のファンタジーですね。
すずな
2009/09/05 09:15
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
あはは・・・大人のファンタジーですよねぇ、これは(^_^;)。
年若い者が書物の力を借りながら、「黄衣の王(英雄)」と闘う物語かと思ったら、そうじゃなかったというのはちょっと・・・ですもんね(笑)。
でも、ホントに夢中で読みました♪
水無月・R
2009/09/05 23:22
こんばんわ。TBさせていただきました。
大人のファンタジーと言う言葉に同感です。
子供にはすすめられませんね。子供にはハッピーエンドで報われる本を読んでほしいです。
ストーリーはとても難しくて、理解するのに苦労しました。というか、まだ理解できていないかもです^^;
お兄ちゃんの事はとても残酷で悲しいラストでしたが、その後のストーリーには救いを感じました。
もう少し大人になったら再び旅に出て、アッシュにもアジュにも、お兄ちゃんにも、再会できるかもしれないという前向きなラストだったので。
苗坊
2010/02/07 22:28
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
「なんでそうなる〜!」と叫びましたよ、〈オルキャスト〉のユーリの役目を知った時には(笑)。
でも逆に、それがユーリのこれからの旅路を広げることになるから、いいのかな?という気もします。
英雄も、黄衣の王も、存在がなくなることはないのだから。物事の表裏として、物語が存在するからには、必ず。
だからこそあの、前向きなラストなんだと思いますね。
水無月・R
2010/02/08 21:03

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