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zoom RSS 『蛇行する川のほとり』(1)〜(3)/恩田陸 ○

<<   作成日時 : 2010/05/18 23:03   >>

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あの夏は、この夏に続いている・・・。皆がそれぞれ何かを知っていて、お互いを探り合い、少しずつ出来事を語り合い、そして一つの終わりを迎える。
そして、〈かれら〉は変容する。

恩田陸さんの描く少年少女達は、強い。繊細で透明な、お互いに捉われている特別な〈かれら〉は、『蛇行する川のほとり』での出来事を通じて色々なものを吸収し、危うさを孕みつつ、もっと強くなってゆく。

ショッキングな物語だ。
最初は柔らかな憧れに始まり、段々と不穏さを増し、夏が猛威をふるう。忘れていた出来事が暴かれ、衝撃的な事故が起こり、過去が明らかになってゆく。その過程で、不思議で恐ろしい出来事も起こる。
関わった少年少女達は、たった数日の間に全く違う者に変わっている。いや、以前の自分に更に別の要素を加え、過去を残しつつも、強く新しい存在に変わっているのだ。

ううむ〜。なんだかやたら感傷的だなぁ。
どういう書き方をしたらいいのか、実を言うとよくわからないのだ。
10年以上前の殺人事件と死亡事故。実はその当事者である少年少女たちが、夏の数日を一緒に過ごす。
ミステリーと言っていい舞台設定だし、「誰が殺したのか」「どうやって殺したのか」も追及されてゆくのに、それでも尚、叙情的に描かれる彼らの日々は、懐かしい気持ちを呼び起こす。
もう子供ではないけれど、まだ大人にもなっていない、あの頃。ちょっとしたきっかけで、全てが変わる可能性を秘めていた、あの頃。
もちろん、私がこの物語の登場人物たちのような繊細さを秘めていた、というわけではない。だが、彼らの過ごした日々に郷愁を感じる。あの空気は、もう感じることが出来ない。

私が読んだのは中公公論社の3分冊された初版本だったんだけど、各巻で語り手が変わって視点が変わり、出来事は少しずつ明らかになっていく。
美しく二人で完結しているかのような上級生、香澄と芳野に「演劇部の舞台背景を仕上げよう」と誘われ、香澄の住む〈船着き場のある家〉で合宿することになった、毬子。そこに香澄の従兄・月彦とその友人暁臣も参加し、過去に子の〈船着き場のある家〉で起こった香澄の母の殺人事件、そして同時期に発生した暁臣の姉の死亡事故について、思わせぶりな発言が繰り返される。
第三者である、毬子の友人・真魚子(まおこ)が登場する、という段階になって、彼女を迎えに行った香澄と毬子が事故に会う。
香澄が逝き、毬子が入院し、残された芳野・真魚子・暁臣は舞台背景を仕上げ、仕上がりを確認しに持っていった野外劇場で、香澄の母の事件について芳野と月彦が推理を展開する。
それを見せられていた香澄の父と義理の母のまえに、灰色の仮面をかぶった少女に「香澄」が降りて(或いはそう演じられて)、自分の行為の理由を激しく語る。
だが、違ったのだ、真実は。時間を遡った最終章で、香澄は彼女の真実を語る。
確かに、筋は通る。たぶん、きっとそうなのだろうと思う。
だが、真の当事者たる彼女らがもう生きていない以上。本当は何があったか、は藪の中なのだ。

第一部「ハルジョオン」 : 語り手は毬子。
第二部「ケンタウロス」 : 語り手は芳野。
第三部「サラバンド」 : 語り手は真魚子。
終章「hushaby」 : 語り手は香澄。
それぞれが、芯に力強さを秘めながらも、風に揺らぐ細い茎の花のように儚くたわみ、過去と現在の物語を見つめて、語る。
愛憎の激しさゆえに、起こってしまった事故と事件。
喪われた存在の役割を担う、残された少年少女たち。いつの間にかその存在を内包し、自分と一つにしていく、危うい強さ。

蛇行する川のほとりで、立ち尽くす〈かれら〉は、これからどうなっていくのだろうか。
眩しい夏は過ぎ去り、少年少女たちは別の存在への変容を余儀なくされ。それでも、喪った者をどこかに内包して。

(2010.05.18 読了)

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蛇行する川のほとり 恩田陸
蛇行する川のほとり (1) 蛇行する川のほとり (2) 蛇行する川のほとり (3) 高校の演劇部の背景賀を描くために、先輩の香澄と芳野に誘われて、毬子は香澄の別荘へやってきた。 友人の真魚子に、気をつけろといわれ、別荘の場所にたどり着いた時には見知らぬ少年にも行く.... ...続きを見る
苗坊の徒然日記
2010/05/18 23:49

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんわ。TBさせていただきました。
ホント、ただ一言。悲しいお話でした。
ショッキングっていうのも同感です。
始めは爽やかな青春小説を想像していたのですが、見事に裏切られましたね^^;
一つ一つの巻が終わるところが衝撃的で。
読む手は止まらなかったんですけども。
彼らは、本当にどうなっていくんでしょうね・・・
苗坊
2010/05/19 00:02
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
読み始めると、いろいろな出来事が次々に起こる上に、過去のことも絡んできて・・・という展開の速さに、ぐいぐいと進んでしまいましたね。
物語の終章が「輝かしい夏の名残り」という季節なのが、とても切なく美しかったです。
水無月・R
2010/05/19 23:52

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