『ケッヘル』下/中山可穂 ◎

ピアノの重低音の和音が、音というよりは衝撃波のように襲い掛かって来るような気がします。
ガーン、ガーン、ガーン・・・。
迫り来る、不安、暗い緊張感。次々に明かされる人間関係、走り出す物語。

中山可穂の文章は、非常に息苦しいですねぇ~。鋭利な刃でえぐられると言うよりは、最初は大して感じなかった重さが段々増してきて、押しつぶされるかのような。息苦しいのに、読み進めてしまう。

『ケッヘル』は、モーツァルトの作品ナンバーにちなんだ殺人が、次々と犯されてゆく。

上巻でアマデウス旅行社に就職し添乗員となった伽椰は、またも添乗するツアー客・栗田の死を迎えてしまう。また伽椰は天才モーツァルトピアニストの安藤アンナと運命の出会いをし、肉体関係を持つことに。
物語は遡って、遠松鍵人の少年時代に戻る。鍵人と藤谷美津子は無人島で出会い、お互いを大切に思う恋情が芽生えるが、美津子は子供の頃のトラウマから、男性に触れられることすら出来ず、5つの人格を持つ。それでもいい一緒にいたい、と2人は高千穂の山奥にある、全寮制の専門的な教育を行う高校に入学する。そこで知り合った、栗田・榊・鬼頭・柳井・青山・そして後に伽羅が日本脱出せざるを得なくなった女性の夫の辰巳。そして、辰巳が首謀して美津子が汚される事件がおきた。
伽椰は、プラハで受け取った、高千穂の学園で彼らが知り合ったいきさつ、起きた事件を詳細に語る、栗田の手紙を読む。手紙には、安藤アンナが美津子の娘であり、遠松鍵人に誘拐され、モーツァルトに関する英才教育を受けたのではないかと示唆されていた。
「アマデウス旅行社」は遠松鍵人の復讐の為に作られたのか。伽椰は、引き続くマンハイムの仕事で、更に榊の死に立ち会ってしまう。次の犠牲者は誰になるのか。巧妙な殺人を犯しているのは遠松鍵人・安藤アンナ親子なのか。アンナの失踪、再会、しかし更なる失踪。尾行者と交渉し、美津子の家を訪れ、アンナ誘拐の過去の真相を知る伽椰。辰巳の死、遠松鍵人との再会。そして、すべての殺人事件を犯したのはアンナだと知る。が、伽椰はアンナをつれて日本へ戻り、薬物厚生施設に入れる。

いや~、またストーリー説明が長くなっちゃいました。でも、コレをやらないと、どうも落ち着かないし(笑)。
上巻で、繋がらなかった鍵人と伽椰ですが、どんどんと絡んで来ました。でも細かく書くと、何処までも広がりそうなので、ほぼ省略。それでもこんなに長いよ・・・(-_-;)。

伽椰とアンナの深く激しい愛情(あなたが殺人者でも、私はあなたを愛する、あなたを救ってみせる)、鍵人と美津子の肉体を伴わない愛、美津子を襲った事件、息詰まるようなモーツァルトのケッヘル番号への殺人者の妄執、どれもが、重く、苦しく、切羽詰って、のしかかってきました。
最後にアンナが鍵人の実子だろうとの推察が描かれていたのが救いかな。

こんな怖ろしい文章を書くことが出来る中山氏は、すごいなと思います。重厚というより、重圧。作品の底から、ボコリ・ボコリとゆっくりと気体がわきあがってくるような、緊張感。水無月・Rお得意の「読みながら一人ツッコミ」すら出来ない、息苦しさ。読むのに体力が要りました。でも、こういう緊張感のある文章は好きです。たまにしか読めませんが。(なんせ、元来軽い人間なので・・・

(2007.6.24 読了)
ケッヘル(下)
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著者:中山可穂出版社:文藝春秋サイズ:単行本ページ数:444p発行年月:2006年06月この著者の新


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なお、この作品は■空蝉草紙■空蝉さんからご紹介いただきました。
(ブログ名を是非クリックしてください。空蝉さんの素敵な文章に出会えます)
思慮があり、軽快ながらも端正な空蝉さんの文章、とても素晴らしいです。
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この記事へのコメント

2007年06月25日 00:35
読了ご苦労様です&相変わらずまとまりのある素敵な書評♪脱帽です。私は読んでもすぐ忘れるので粗筋まとめるのが苦手で・・・(ボケ)
中山氏の作品では一番重いです、これ。『サグラダファミリア』(だったかな?)はわりと軽くてこんな形の家族もあり!という素敵なお話です。いつか目にとまったらぜひ。
miyukichi
2007年06月25日 21:49
 こんばんは♪
 ご訪問&TBどうもありがとうございました。
 こちらからもTBさせていただきました。

>中山可穂の文章は、非常に息苦しいですねぇ~

 ああー、わかりますー。
 さっき上巻のコメントに書いたところなんですが、
 まさにそうですよね。

 ほんと、しょっちゅうは読めないけど、
 でもこういう重厚なのもいいですよね。
 中山さんの筆力、表現力に圧倒されまくりでした。

 http://blog.goo.ne.jp/miyukichi_special
2007年06月25日 23:10
空蝉さん、こんばんは~(^^)。
TB&コメント、ありがとうございます!
気合で読み終わった勢いで書いてしまったので、すごい事になってますね、この記事・・・(笑)。
『サグラダファミリア』って、スペインの今なお建築中の大聖堂の名前だったかしらん?間をちょっと置いて、読んでみたいと思います。ご紹介、ありがとうございます♪

みゆきちさん、こんばんは(^^)。
TB&コメント、ありがとうございます!
中山氏の圧倒的な迫力ある文章、ホントに凄いですよね。読書的体力?が戻ったら、またこういう本を読んでみたいです♪

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