『桜の森の満開の下』/坂口安吾 ○

うう~む。重苦しい・・。
森見登美彦さんの『【新釈】走れメロス 他4篇』の時に「原作読んでない~、やっぱこれは読むべきでしょう!」と心に決めた一篇です。と言っても、『桜の森の満開の下』は短篇集なので、他の物語も含まれてます。
しかし坂口安吾と言えば、いわゆる昭和の文豪ですよ。重厚な憂鬱というか、陰鬱な美というか、極甘な羊羹を食べてしまった後のような胃もたれ感が・・・。文章が、すごく読み辛かったです。
最近、現代小説しか読んでないからな~。

さまざまな時代を切り取る、13篇。実を言うと何篇かは途中で挫折しました・・・。すっかり頭がなまってますな~。昔は、こういう物語もむさぼるように読んでたんですけどね。

その中でもちろん「桜の森の満開の下」は、思うところが多かったですねぇ。読み始めは森見作品のほうを意識していたのですが、すっかり引き込まれて忘れてしまっていました。

山間の道で、旅人や隊商を襲い、人を殺すことも辞さない山賊。桜の下での感情の揺れに気付きながらもやり過ごしていたが、ある年その桜の木の下で美しい女を拾う。彼女を背負って隠れ家に戻り、女に言われるがままに妻たちを斬り殺し、女に美しい着物や小物類を貢ぐ毎日。女はそれに満足せず、「都に出なければ私は死んでしまう」と山賊にねだり、2人と下女は都に出る。
都で女のために盗みや殺しを繰り返す山賊。女が望むがままにさまざまなクビを与え、女はそれで首遊び(人形遊びのようなもの)をする。都に対する違和感や疎外感から、山賊は山に帰りたいという。最初は嫌がっていた女も、自分の魅力でどうにかなる、と帰ることに同意する。
折しも、桜の舞い散る季節。再び女を背負って、桜の森の満開の下を進む山賊。ふと不安の影が差しおぶった女を振り返ると、そこにいたのは鬼。鬼に首を絞められ、締め返し、ふと気付くと自分が絞め殺したのは女。桜の花びらが舞い仕切る中、山賊は泣き伏す。彼と女の死体の上に花弁は降り積もる次の瞬間、「ヒト」の姿は消える。そして、残るのは冷たい孤独。

桜は、人を狂わせる。文学的にそういう伝統だし、実際に何故か、桜の花が舞い散る下に一人で立って居たりしたら、幽鬼に出会いそうだと思う。闇の中、あの薄紅色の花弁がくるくると舞い落ち、ぼうっと光る。逆に闇が深くなる。なにかが、向こうで揺らいでいるような。美しくも、狂おしい、怖ろしいものが。

読み終わる頃、ふと森見作品のことを思い出した。
これを、現代の京都に置き換えて、森見さんはあの物語を作ったんだな~。女のおかげで都へ出て成功した男がいつの間にかそれに息苦しさを感じ、桜の木の下へ舞い戻り、そこで女が消えてしまう。残されたのは、冷たい孤独。
まったく違う物語のような、それでいて同じ物語のような。残る印象は、冷たい孤独。

さてさて、他の物語は・・・。
「夜長姫と耳男」はなかなかにブラックでしたね。ヒメの無慈悲は、ヒトを超えている。ヒメは生き神だと村人たちは噂すヘビの生き血を塗り込め、呪いを込めたる。生き神だから情がないのか。情はないのに、ヒメは無邪気に美しく笑う。ヒメの16歳の祝いのために耳男が、ヘビの生き血を塗り込め呪いを込めた作った仏。その仏のおぞましさすら超える、ヒメの言動に人ならぬものを感じ取り、2度にわたる疫病の災厄を止めんがために、耳男はヒメを殺し、その亡骸を抱いたまま気を失って倒れてしまう。
ヒメの無邪気な人にあらざる無慈悲あまりの毒気に、なんだか読んでるうちに我が身に染み込んでしまうようで・・・。怖ろしい物語だ。

他の作品も土着の恐怖心というのだろうか。民族的な、DNAに刻み込まれているかのように、奥深くからひたひたと押し寄せてくる、その怖れの感情を、湧き起こさせる。
文章が難しいせいもあるけど、その怖れの感情が、とても疲れる本でした・・・。

(2008.05.07 読了)

桜の森の満開の下
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講談社文芸文庫 著者:坂口安吾出版社:講談社サイズ:文庫ページ数:453p発行年月:1989年04月


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