『鬼神の狂乱』/坂東眞砂子 ○

果たして、坂東眞砂子さんは「はちきん作家」なのか?(←そんなこと気にしてるのは水無月・Rだけだ(-_-;))
『パライゾの寺』では、そこココに土佐の香りをかぎつつも「はちきん」を断じるにはいささか足らず、と判断を控えておりましたが。
今回『鬼神の狂乱』で、結果はどうだったかというと・・・。

いや、偉そうな前フリだけど、実際「はちきん作家」の定義とは何ぞや。
作品に「はちきん魂」を感じる、芯の強い女性を描く高知県出身女性作家・・・ってことだと勝手に決めてるんですが(もちろん水無月・Rの私見)。
この作品に描かれた、村娘・みつの心の強さと、同じく村娘・すみのしたたかさには、はちきん魂を感じました。男勝りという感じではないのですが、彼女らの芯の強さは、気持ちがいいです。
―――というわけで、坂東眞砂子さんは水無月・R的「はちきん作家」と認定!
お気に入り作家さんとして、今後の記事量も増えるのではないかと。

弘化元年、土佐の国豊永郷岩原村で起こった「狗神憑き」騒動の顛末・・・。
あれは、ただの集団ヒステリーだったのか、それとも時代の風を感じた農民の行動だったのか。
国境の貧村に訪れた狂気。人を害することはないものの、村役の家や寺で騒ぎ暴れる人間は、日に日に増えてゆく。狂乱者は狂乱している間の記憶がなく、日暮れればおとなしく帰宅するが、昼間は騒ぎ暴れ回るため、村の生産活動は立ち行かなくなってしまう。
僧侶の祈祷も神官のお祓いも効き目なく、藩から派遣された(憑いたのは古狸と称していたため)鉄砲をもった足軽隊の発砲や犬をけしかけるなどしても、一度は沈静化しても再発する、狂乱。
彼らを襲うのは、邪神や妖異の気配なのか。土佐の国にとっての鬼門である国の北東の境にある岩原村に、邪気が溜まるからなのか。それとも、村人たちの心の奥底に眠る「自由への渇望」が狂わせるのか。或いは、村を興した当時の農民の喜びの叫びに揺さぶられるのか。

時代背景としては、幕政の根幹が揺らぎ始めたころ。
とはいえ舞台は、土佐という外様の国で、しかも四国山脈の中にある国境の貧村。
やはり侍は偉いし、村の中でも階級差のようなものもあり、飢饉はやっと乗り越えたけれどかつかつの生活が普通になっている、そんな村で。
ある日突然、村人たちが次々と狂乱し始める。
歴史のこととか、あまり難しく考えずに読めました。この狗神憑き騒動を「物語(フィクション)」としてとらえるか、「史実」としてとらえるか。
坂東さんがいろいろな資料を当たられ、取材や考察を重ねてこの『鬼神の狂乱』を描いたことが「覚書」「附記」からわかります。
限りなく「史実に近いフィクション」だといいな、と思いました。

村娘・みつと藩から派遣された役人・藤崎信八の、相思相愛ながら身分を乗り越えられない思いがあちこちに挟まれ、2人の美しい思いに清涼さを感じましたね。
終章で、信八が侍を辞めて郷士となり、みつを迎えに来たのには驚きました。
侍という身分を捨て、新しい土地を、未来を切り拓く。とても良いなと思いました。

~~鬼神の歓喜と希望に満ちた声は、力なのだ。未来に広がっていく力。それをどう受け取るかは、人次第だ。百姓たちの狂乱すら、百姓たちにとっては歓喜と希望の爆発だったのかも知れない。~~ (本文より引用)
五台山三重塔の屋根の上、みつの体から城下へと解き放たれた、鬼神。
それは、貧村の鬼神(死者の魄)の怨嗟や怒りではなく、新しい時代に即した、何か。
もしかしたら、こののちに「土佐の国に現れる、新しい時代を切り拓く力」の萌芽。
・・・なんて、妄想が走りすぎでしょうかね。

(2008.06.09 読了)

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著者:坂東真砂子出版社:幻冬舎サイズ:単行本ページ数:325p発行年月:2008年01月この著者の新


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この記事へのコメント

2008年06月13日 14:18
こんにちは、鬼神の狂乱気になっていたんです~!なので水無月さんの書評を見つけてうれしかったり♪買おうか迷っていましたがこれで迷いが取れました、買います!(笑) もしかしたら少しだけ、『孤宿の人』に似ているのかな?と。
2008年06月13日 21:42
空蝉さん、こんばんは(^^)。
私は『孤宿の人』の方は読んだことないのでわからないですが、『鬼神の狂乱』は、良かったですよ~。
幕末の閉塞感と土佐に現れた「新しい時代を切り開く力」の萌芽。
しかも、それを生んだのは、農民。地を耕し、人が生きるのに必要な作物を育て収穫する民。土地に根差し、国の「生」を支える力。
是非読んでみてください!

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  • 『鬼神の狂乱』 by 坂東眞砂子

    Excerpt: 人が狂うということと、鬼が、神が狂うと言うことはどのようなことなのだろうか。 人としてのソレは一過性の症状であり個人的な問題として判断されるが、神が狂うとなると話が違ってくる。 集団による.. Weblog: ■空蝉草紙■ racked: 2008-07-08 13:04