『モダンタイムス』/伊坂幸太郎 ○

うわぁ・・・。あと味、悪ぅ~。この読後の胃にもたれる感じ、ぞわぞわする感じ、うう・・・ダメだぁ~。
伊坂幸太郎さんの『魔王』の50年後を描く、『モダンタイムス』です。
あれから50年、国民投票で憲法は改正され、徴兵制が実施されたり、国民監視体制は更に巧妙になってきている。
システムエンジニアの渡辺拓海がある日帰宅すると、妻の差し向けた拷問者がいた・・・。彼は「勇気はあるか?」と問いかける。
この物語の根底にあるのは、この問いかけのような気がする。登場人物に、読者に問いかける。
「勇気はあるか?」と。

『ゴールデンスランバー』に似てますな。あとがきで伊坂さんもそう書いてるけど。
読んでてもう、何度叫びそうになったことか。「渡辺!それは偶然じゃない、仕組まれてるんだ!」「ああ~、騙されちゃダメだって!仕組まれてるんだってば!」と。
誰が仕掛けてきているのか。どうして渡辺なのか。読むうちにそれは判ってくるのだけれど、後味悪すぎ・・・。

産業革命によって機械化された工場で、機械に翻弄される人間を風刺的に描いたチャップリンの映画、「モダンタイムス」。あえて同じタイトルで、人がシステムに取り込まれ、機械化して、責任や人間性を失っていく事がこれだけ怖いことだと読者に突き付ける。
そして、その中で抵抗する「勇気はあるか?」と問いかける。

ううむ。なんか今回はストーリーを追うのができそうにないので省略。パラパラと思ったことを散発的に書いていこうと思う。あんまり伏線とかもなかったしね~。

目に見えない、「何か」に利用される。気がつけばシステムの中にいて、抜け出しようがなく「そういうことになっている」ことになる。
真実は1つではない。公表されていることが事実とは限らない。
情報社会だからこそ、情報は操作されている。
動かしているのは・・・「国家」?では、国家とは何か?国民でもなく政治家でもなく、国家。
作中に出てくる作家「井坂好太郎」はいう。「国家が一番危惧するのは停滞することだ」と。
でも、国家というものに意思はあるのか。やはりコントロールする存在がいるのではないか?だが、それはいない。あの犬養(『魔王』の後首相となった)ですら、システムの一部であった。
絶対悪は存在しない。勧善懲悪では割り切れない。

うわ~ん。やっぱり嫌だ~そんなの~!

大筋は、やっぱり頷けない。伊坂さんからの、大勢に流されてはいけないという危機意識の喚起、という意味では、すごく響くのだけれど。
このまま、安易に流されては危険だ、人が人でなくなって部品になってしまうのでは・・・というその極端な煽り方が、気持ち悪くて、駄目だ~(ついでに言うと、拷問シーンも結構生々しくて・・・嫌だったなぁ)。

でも、安藤潤也と詩織夫妻が、競馬で儲けたお金を良い事に使おうと「安藤商会」を作って活動していたこと、渡辺の先輩・五反田の不屈の精神、渡辺の友人で作家・井坂のいいかげんそうで実は的を射た思考、渡辺の妻・佳代子の真っ直ぐな所と妙に強いところ、佳代子の派遣した拷問者・岡本の飄々としたたたずまい、そして渡辺自身の忘れてきたはずの「勇気」、あちこちになんとなくだけれど、ホッとするような要素があって、それは良かった。
こういう救いがないと、ホント辛かったもの・・・。

安藤一族(渡辺も実はその末裔)のささやかなる超能力。渡辺もそれを発揮して、危機を切り抜けることもあるのだけれど、その発現までは極限状態に置かれなきゃいけなかったりして、万能感はあまりない。
敵対する側の「押さえつける」能力の緒方だって、万能ではなく、渡辺の「腹話術」にかかったりするし。
渡辺の能力が「腹話術」だというのは、結構象徴的かな~と思いました。元祖の安藤・兄も「腹話術」だったし。

ところで結局、佳代子さんって、何なんでしょうね?!とんでもなく強いし、とんでもなく過激だし、そのくせ真っ直ぐ。夫の浮気を疑って拷問者派遣って・・・きょ、極端な・・・。最初は「国家」側のまわし者で、渡辺を引っかける側なのかと疑ってましたね。全然そんなことなく、夫婦で抵抗活動に励んでくれましたが。
渡辺は佳代子さんを愛していて、物語のラストで岡本に「勇気はあるか?」と問いかけられた時、
~~「勇気は、彼女が持っている。俺がなくしたりしなように」~~ (本文より引用)
と答える。なんとなく、救いはあるのかもという気分で物語を読み終えることができたのは、渡辺のこういうところなんですよね。シンプルに素直な所。

「勇気はあるか?」と問いかけられたら、私はどう答えるだろうか・・・。
自信を持って、答えることは出来そうにない。
「ある」にしろ「ない」にしろ。はたまた「実家に忘れてきました」にしろ。
それでも、ささやかな抵抗はしたいと望んではいる。システムの一部になって、機械化されたくはないと思うから。

(2008.12.16 読了)
モダンタイムス
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Morning novels 著者:伊坂幸太郎出版社:講談社サイズ:単行本ページ数:540p発行年月


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この記事へのコメント

2008年12月18日 00:30
こんばんは♪私も、読みながら、最後まで佳代子さんにびくびくしてました(汗)
やたら強いし、度胸はあるし、それでいて怖いし。伊坂氏の女性キャラは男性よりたくましいことが多いですけど、佳代子さんは謎ですねえ。彼女だけが何もかもわかってるような気がして仕方ないんですが(笑)私はこの、割り切れない世界をぐるぐるする感じは好きだったんですけど(ちょっとカフカの「城」なんかに似てるような)詰め込みすぎの感じはありましたね。やっぱり週刊誌連載って、大変なんだなあと思った私でした。
2008年12月18日 22:02
ERIさん、ありがとうございます(^^)。
そうなんですよね~、佳代子さんの正体やいかに?!という大いなる疑問が。
次作でそれを明かしてくれるんじゃないかとか、期待してます(笑)。
小説誌でなくマンガ雑誌への連載ってことで、伊坂さんもいろいろ大変だったんでしょうね。
2008年12月19日 11:29
こんにちは。
佳代子さんをはじめ、色んな謎がそのままのような感じでモヤモヤが残っちゃいましたね。おまけに「ゴールデン~」と似てるというのが、どうにもこうにも・・・でした^^;
「勇気はあるか?」と問われたら・・・私もささやかな抵抗はしたいと思います。。。
エビノート
2008年12月20日 21:17
どうしても「ゴールデンスランバー」と比べちゃいますね。似たような世界だし。
閉塞感のある世界を打ち破る爽快感をもっと感じたかったなぁ~というのが本音ですが、渡辺たちの頑張り以上のものが自分にできるかというと自信なしです(^_^;)
抵抗はしたいと思うんですけどね。
2008年12月20日 22:22
>すずなさん。
謎が多くて、ちょっと・・・でしたねぇ。
ちなみに。「勇気は実家に置いてきたんですが、実家が改築した際に行方不明になりました」とかいうリアルな返事したら、ぶん殴られますかね(笑)。
そんな返答してる時点で、反抗する気まる見え・・・(^_^;)。

>エビノートさん。
世界全体がシステムに組み込まれてるのでは・・・なんて言う恐怖がじわじわと・・・。
だとすると、ささやかな一個人の抵抗では、どうにもなりそうにない・・・という気持ちの落ち着かなさが、どうも嫌な感じでした。
抵抗は、したいんですけどね。
じゅずじ
2009年01月21日 08:57
いきなりの拷問はちょっとビックリでした。
ゴールデンスランバーでも思ったんですが、やっぱり歴史のシナリオは誰か書いてるんじゃないかと(笑

ところで、あの派遣の女は何者だったんでしょうか!?
ずっと疑問です。
2009年01月21日 22:15
じゅずじさん、こんばんは(^^)。
ああ~!突っ込むの忘れてました!
国家権力系から配置された人材、ですかね?
渡辺はすでに物語が始まった時点で、マーク済みってことですよね。安藤商会の血縁者ってことで。
ああ・・怖ろしい話です。
2009年01月31日 09:34
う~、なんとなく最近の伊坂作品には賛否両論がある感じですね。昔のノリが真面目(?)な話に影を薄くされているからでしょうか。私は井坂さんのこういう姿勢、執筆内容、すごく好きですけど。というのもインタビューとか読んでいると本人、それほど反国家主義みたいなこと全然考えていないしそういうメッセージではないらしいんですよ。でもどうとるかは読者次第ですしね。難しいところです。
2009年01月31日 22:24
空蝉さん、ありがとうございます(^^)。
そうですねぇ・・・内容とか作風的にはそんなに否定感はないんですが、とにかく「何かに仕組まれている」感が相当怖いんですよねぇ・・・。
あと、あのラストに向けての、怒涛の伏線回収の鮮やかさが薄れてきたのが残念で。
エンターテイメント性というのでしょうか、すっきり感を求める読者は、ちょっと違う、と思うのでしょうね。
june
2009年03月01日 23:50
「ゴールデンスランバー」の時も思ったのですが、実態すらわからないくらい大きすぎる相手に追いつめられるのって、ほんと怖かったです。狙われたらおしまいって感じですもん。
しかもそんな極限状態で現れた能力のしょぼいこと!でも、そのあたりが伊坂さんらしくてホッとさせられたかも。そしてあとはキャラやいいセリフで救われた気がします。
それにしても佳代子さんって何者なんでしょう。私ももしや佳代子さんとの結婚も仕組まれていた??と疑心暗鬼になってしまいました。
2009年03月02日 21:47
juneさん、ありがとうございます(^^)。
すんごい超能力ではなく、「しょぼい」能力であるところが、いいんですよね~。身近な感じがして。
佳代子さんは、・・・謎ですよねぇ。
もし佳代子さんまで罠の一部だとしたら、この物語丸々全部、フェイクだということに・・・!
怖ろしすぎますね。でもあり得なくもない。
願わくばそうではないことを・・・。
たかこ
2009年07月02日 12:46
実は「魔王」未読なんです。先にこっちを読んでしまいました。いいのかな…。
話は、ゴールデンスランバーに似てますね。何か正体不明な組織に組み込まれているような…。

佳代子さんの正体が知りたいっ!
2009年07月02日 21:45
たかこさん、ありがとうございます(^^)。
順番は、そんなに問題じゃないと思いますよ。
いつの間にかシステムに組み込まれ、いいように動かされてしまう・・・、あり得るかも知れないという怖さがありました、ホント。
そして、佳代子さんの正体は、どのブログさんでも話題ですよね~。いつかわかるのかしら・・・と期待しています。

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