『魚神』/千早茜 ○

『おとぎのかけら~新釈西洋童話集~』を読んだときに、皆さんからお勧めいただいた『魚神』
時代もよくわからない、日本のようで無国籍の雰囲気もある遊郭の島で、捨て子の姉弟の白亜とスケキヨは育った。長じて二人は分かたれ、お互いを欲しながらも再会を怖れて日々を過ごしていた。
不思議な雰囲気でした~。島に伝わる雷魚と島いちばんの遊女の伝説、島の者たちが夢を見ないのは獏がいるからという噂、島の者たちは「登録」されていないから存在を認められないという事実。
千早茜さんって、雰囲気のある文章を書く方ですねぇ。

猥雑な遊郭の情景も、白亜が淡々と現実感を感じないまま過ごしているがゆえに、薄絹の向こう側でぼんやりと揺らめいて幻想的に見える。裏華街に売られたスケキヨを追って乗り込むもののスケキヨに拒絶され、全てを失ったような心持になり、その後自分も遊女として売り払われた白亜。見世で唯一白亜に親愛を示した遊女・新笠が、秘かに妙薬を売る男と知り合い、その男を愛し利用されたことから、白亜のかりそめの安逸の日々は揺らぎ始める。
会いたいのに、息苦しくなる程にお互いを欲しているのに、再会した時に拒絶される事を怖れて、頑なに会うことを拒み合う、美しい姉弟。

大きな川の河口にある、「本土」にはいられない者達の吹き溜まりである島。電気の通わないその島にあるのは「登録」されず「本土」の土を踏むこともかなわない者たちの作る歓楽街。本土から来る者たちは洋装に革靴を履き、遠く本土には電気の灯りがともる。歓楽街の遊女たちは、自治組織に監視され、楼閣主に支配され、本土から来る客たちに弄ばれる。
いつの時代かもわからず、伝説と現実が入り混じるかのようなあやうい世界観が美しい。
島を取り囲む水は、どこか粘質を帯びて絡みつき、透明なのに底が見えない昏さを持っているように感じる。島の住人達はその水に取り憑かれままならぬ毎日を過ごしているような気がする。

伝説の方の白亜が辿り着いた雨極。いつも優しく美しい雨が降り続くその桃源郷に似た世界はきっと、白亜とスケキヨが二人きりで暮らした世界と同じなのだろう。お互いだけを心から望み、共に在ることを望み、いつしか一つのものになって朽ちてゆくことを望んでいるのではないか。

からみつく水と湿度が高く甘い香りのする空気、そんな幻想世界を彷徨いました。

(2011.02.15 読了)

魚神
集英社
千早 茜

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この記事へのコメント

2011年02月16日 12:47
これがデビュー作とは思えない、雰囲気のある小説でしたね。
姉弟がお互いを欲しながらも拒絶し合う、そんな二人の姿が堪らなく切なかったです。
2011年02月16日 20:21
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
そうなんですよね~、これがデビュー作。
不思議に妖しい世界観、美貌の姉弟の激しい思慕、もどかしい思いをしつつどっぷりと浸っちゃいましたね。
苗坊
2011年02月16日 23:55
こんばんは^^読まれたんですね~!
この独特の世界観、良かったですよね!
日本のような日本ではないような。
白亜自身が幻想的な雰囲気でずっと夢見心地で読んでいた気がします。
2011年02月17日 12:31
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
ホントに、おススメありがとうございました♪
白亜もスケキヨもきっと、お互いの存在以外には現実感を感じられなかったのでしょうね。
そんな孤独で、でもそれだからこそ幻想的で美しい世界でした。
たかこ
2011年03月05日 22:09
ほんと、雰囲気がありますね。水の使い方や表現がすごく良かったと思います。
ちょっと宮木さんを思い出したりもしたんですが、全体の雰囲気は全然違いました(^_^;)
今後が楽しみな作家さんですね。ちょっと気になります。
2011年03月05日 23:15
たかこさん、ありがとうございます(^^)。
遊郭というと、宮木さんのデビュー作を思い出しますよね♪
こちらもデビュー作ですが、また違った雰囲気で、不思議で幻想的な世界をさまよいました。

すみません、最近またライブドアブログさんとの相性が悪いみたいで、コメントもTBも出来なくなってます・・・。
日や時間帯を変えてチャレンジしますので、もし2重投稿とかになっていたら、ごめんなさい。
たかこ
2011年03月06日 23:03
水無月・Rさん
TBありがとうございました。
実はコメントは受け付けないようになっています。なかなか返信する時間がとれないので、ごめんなさい。水無月・Rさんの方でコメントさせていただきますね<(_ _)>

(でもコメントが書ける枠だけ残っていたので、修正しました。もし書いてくださっていたらごめんなさい。)

今後ともよろしくお願いします。

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