『サヴァイヴ』/近藤史恵 ◎

『サクリファイス』『エデン』の番外短編集、『サヴァイヴ』
6編中4編は雑誌『Story Seller』で既読なのですが、やっぱり全体を見渡したいので、再読しました。
自転車ロードレースという特殊なスポーツの中で、集団で走りながらも孤独と戦うような、そんな緊張感のある物語たちでしたね。近藤史恵さんの、物語構成のうまさが光っています。ただ、前作2作を読んでたほうが、より楽しめると思います(私が初めて読んだのは「プロトンの中の孤独」だったけど)。

チームのエースの勝利のために尽くすアシスト、そしてアシストたちの献身の上に成り立つ圧倒的なエースの走り、一つのレースの中でも様々な戦略が展開される頭脳戦、風よりも早くコースを走り抜け最善を尽くす選手たちの美しさ。
そして、注目されないスポーツであるが故のチーム運営の難しさ、チーム内でも生まれる葛藤や対立。
そういった、技能だけでもなく、精神論だけでもなく、様々な要素が複雑に絡み合った中で、緊張感をはらんでレースは展開される。

どういうことを書いたらいいのか、実をいうと非常に困っている。
『サクリファイス』も『エデン』もとても好きで、もちろんこの『サヴァイヴ』もとても気にったのだけれど、何がどういう風に好きかを書くのが難しいのだ。
自転車ロードレースという求道的なスポーツの中で巻き起こるサスペンスがいいというのもあるし、登場人物たちが我が道を行くような者から打たれ弱い面を持つような者までいること、それぞれが自転車ロードレースに命を懸け、ロードレーサーの楽園を目指して走り続けること、その力強さや心許なさの入り混じったある種の〈人間らしさ〉にも魅力を感じる。
たぶん、勝利の形はそれぞれ違う、というのがよいのだろう。・・・たぶん。

「老ビプネンの腹の中」
チカはフランスのチームで〈北の地獄〉と呼ばれる過酷なコースのレースに出場する。石畳、ぬかるみ、雨、全身に跳ね返る泥、それでもゴールし「自転車ロードレース」という世界で生き抜くために。
「スピードの果て」
伊庭は自分を煽ったバイクを振り切ろうとした時、そのバイクの事故に遭遇してしまう。フラッシュバックする事故の光景。ヨーロッパのレースでチカと再会し、レースの嵐に翻弄されながらも、ひたすらペダルをこぎ続ける。ゴールへたどり着き、早く乗り越えるために。
「プロトンの中の孤独」
石尾と赤城が新人時代。強いことで妬まれた石尾が、現エースからの嫌がらせを受けながらも、レース展開を制し、チームの勝利に貢献する。赤城から見た、石尾の「自転車ロードレース」の勝ち方。
「レミング」
石尾係と呼ばれるようになった赤城。妨害するチームメイトに「沖縄では走る、だがお前がエースだ」と言い放つ、王者の風格を持つようになった石尾。
「ゴールよりももっと遠く」
金に飽かせて、自転車ロードレース界を利用しようとする新興企業。真にロードレースのためを考え行動する石尾と、その姿を見つめる赤城。
「トウラーダ」
ポルトガルに移住したチカは、チームメイトの実家に下宿する。闘牛を観戦し、その悲惨さに体調を崩したチカだったが、チームメイトの訪問を受け、回復する。チームメイトは以前ドーピング疑惑で出場停止を受けていたが、最近復帰した。だが、レースのさなかドーピングが発覚し、解雇される。チカは、彼に部屋を返すために、この家を出ようと考える。

「スピードの果て」で伊庭が事故のフラッシュバックで走れなくなったのが、意外だった。伊庭は、ただひたすら自転車で走ることを追及し、その意志は何にも左右されない、強いエースというイメージがあったから。だけど、それを乗り越えるというか、それがあったからこそというか、伊庭がロードレーサーとしてまた一つランクアップしたんだろという気がする。
そして、日本とヨーロッパに離れても、チカと伊庭の間にある友情とはまた違う絶対的な信頼感が、とても素晴らしかったと思う。
アシストはエースに尽くし、エースはアシストの献身に勝利を持って報いる。だが間にあるのは主従関係ではなく、強い信頼と絆。ともにレースを走り抜けるための、そしてレースという楽園で生き抜くための、協力関係。楽園を走り続けることが、彼らにとって生きることだから。

(2011.10.02 読了)
サヴァイヴ
新潮社
近藤 史恵

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この記事へのコメント

苗坊
2011年10月04日 01:05
私も4作は既読でした。てっきり長編だと思っていて、楽しみにしていたのでちょっと拍子抜けした部分はありましたが^^;私も思い出したいのと全体を知りたいのとで全部読みました。
何だか久しぶりだったので読んでいて懐かしさを感じました^m^
伊庭のトラウマは意外ですよね。そういうのにとらわれなさそうなイメージだったので私も印象に残っています。
最後の作品が気になる終わり方をしているので、ぜひとも今度は長編でまたチカたちを書いてほしいなと思います。
2011年10月04日 14:29
苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
短編集、しかも既読ということで、割と肩の力を抜いて読んでたんですが、それでもやっぱり「サクリファイス」の世界はいいなぁ!と感じました。
確かに「トウラーダ」はこれからチカはどうするんだろう、と展開が気になりますよね。
できたら大きいレースで、また伊庭と走ってくれるといいなぁ・・なんて思ってます。
2011年10月05日 12:52
このシリーズは、自転車ロードレースの魅力、そして、そこに関わる人々の人間関係の複雑さや機微というようなものに惹かれて、つい夢中で読んでしまいますね。
好きなシリーズなので読めるのは嬉しいんですが、やっぱり長編が読みたいなー!と思ってしまいます^^;次は長編を期待!ですねー。
2011年10月06日 20:11
すずなさん、ありがとうございます(^^)。
このシリーズは、自転車ロードレースにかかわる人たちの矜持や複雑な思いなど、深いですよねぇ。長編でそこのところを、ガッツリ読みたい!って気持ちになりますね。是非、次は長編で♪

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