『屍者たちの帝国』/大森望責任編集(アンソロジー) ◎

伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』の世界観を舞台に、様々な執筆者が競作するシェアードワールドな短編集、『屍者たちの帝国』
責任編集は翻訳家・書評家の大森望さん。
死者に疑似霊素をインストールして屍者として使役している、ifの世界を切り取った、8つの物語は、どれも興味深く、きちんと世界観が根付いているうえでの自由さに驚かされました。
非常に面白かったです!

「従卒トム」/藤井大洋
かつて南部で奴隷だったトムは、屍者兵運用者として日本に渡り、西郷隆盛と出会う。
「小ねずみと童貞と復活した女」/高野史緒
まさかの『アルジャーノン』パロディ。しかも超SF展開でどうなる?!
「神の御名は黙して唱えよ」/仁木稔
イスラムと屍者の関わりを描き、恩師に裏切られた若者の諦念で終結する。
「屍者狩り大佐」/北原尚彦^
本編の合間、アフガニスタンから移動するワトソン一行に、降りかかった出来事。
「エリス、聞こえるか?」/津原泰水
屍者の世界に、森鴎外『舞姫』が紛れ込むと。
「石に漱ぎて滅びなば」/山田正紀
ロンドンで夏目漱石が遭遇した情報将校・橋爪竜之介が、海軍式カレーを考案した瞬間?
「ジャングルの物語、その他の物語」/坂長雄一
とある有名な児童書のモデルである少年が夢想していた世界と、それを翻案した父。
「海神の裔」/宮部みゆき
村に現れ、村の守り神となった屍者のことを、老婆は語る。

『屍者の帝国』の世界観をそのままに、本当にいろいろな時代・場所・状況での物語が鮮やかに描かれていて、驚きました。
一部私の考えてた世界観と違う作品もあったものの、どれもが魅力的で、面白かったです。

なんといっても、一番はやっぱり宮部さんですねぇ。
鄙びた漁村に流れ着いた外国人屍者と通詞が、米海軍から姿を隠しながらも穏やかな日々を送り、最期を迎え、その後をどう処置したかを、村の老婆が語る。
本編では屍者に心はなく、しゃべることもできるはずがない設定だったけど、少しだけ意思を残してるということにして、暖かで穏やかな日々を過ごしたというのが、心温まりました。そして、そんな屍者を神として加工し祀るという発想ができる村人たちの、柔軟さも微笑ましく思えました。
朽ちるまで人に使役される屍者がこういった最期を迎えるというのは、数少ない例でしょうけど、それでもよかった…なんて思ってしまえるほどでした。

しかしまあ、「ジャングルの物語、その他の物語」の主人公の少年のフルネームが分かった時の驚きといったら。少年の「ごっこ遊び」を大胆に翻案して物語化した父親。わかった瞬間、笑ってしまいました。でも、その名作に良くも悪くも大きな影響を受けた彼が、父の死の知らせを受けて戻った故郷で再会したもう動かぬ屍者との対面に、空想に戻れず追憶にのみ浸るシーンには、淋しさを覚えましたね。その淋しさの中から立ち上がり、「屍者保存」へ「父の有名な物語」を利用した彼。もう「屍者」というものが目につかない世界で、全盛期とは隔世の感のある「屍者の廃り」をひしひしと感じてしまい、ますます私は淋しくなってしまいました。

笑えたのは、「屍者狩り大佐」のバーナビー大佐ですね。本編でのブレない「武力バカ」ぶり(←誉めてます)が、こちらの作品でも揺るぎなさすぎて。物語の「屍者狩り大佐」はバーナビー大佐ではないのですけど(笑)。こちらのモラン大佐もさることながら、ワトソンの銃の腕前にはびっくりしました。

このアンソロジーを読んでいる間、屍者はリアルに私の感覚の中にありました。勿論、私の日常生活に『屍者』はいないのですが、読んでいる間ずっと、屍者を運用する人々、屍者と出会って人生が変わった人々、屍者そのもの、それぞれに気持ちを寄せていくことが出来ました。
どの作品にも、『屍者の帝国』への敬意と挑戦が溢れていたからでしょうね。素晴らしかったです。

(2018.02.08 読了)

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