『鳥の巣』/シャーリー・ジャクスン 〇

新聞の書評が目に入り、『ずっとお城で暮らしてる』の狂気の奔流の印象を思い出してまた読んでみようかなという気になった、シャーリー・ジャクスンさんの多重人格ストーリー。
マザーグースやわらべ歌、なぞなぞ歌などがそこかしこに不穏に引用される『鳥の巣』で描かれた、息詰まるような展開、そして不明瞭な終結。
落ち着かないことこの上ない!!・・・のに、妙に納得がいくというか、そういう点が怖いんですよ、この作家さんは!!

地味で内気な博物館の事務員、エリザベス・リッチモンド。ある日、博物館の傾きを修正するための穴が彼女の事務机の横に開けられ、そして奇妙な手紙が届きだす。少しずつ、軸がぶれ始めた彼女の日常。エリザベスの状態を憂いた叔母・モーゲンに連れられ、かかりつけのライアン医師を訪れると、精神分析医のライト医師を紹介される。
ライト医師に何度か診察されるうちに、エリザベスの中に在る別人格が現れ、医師と対話をし、だんだん人格がくっきりしてくる。
その中のベッツィが、ニューヨークに逃走した時、第4の人格・ベティが暴れ始める。その騒ぎから、エリザベスたちは連れ戻され、再びライト医師の診療を受け始める。
良くなるどころか、悪化の一途をたどるエリザベスたち。
とある晩に、エリザベスとモーゲンの住む家にライト医師が呼ばれ、エリザベスたちは激しく人格の主権を争うことになる。
そして、3か月後。「新たな彼女」は、記憶も人格も一つとなって、平穏に暮らしていた。

私が若いころ、『5番目のサリー』や『24人のビリー・ミリガン』など、多重人格をテーマにした小説が流行ったことがありました。私もいくつか読んだ覚えがあるのですが、本作はその先駆けともなる「多重人格」ものでありながら、テーマは〈複数人格の統合〉ではなかったように思います。
統合のシーンは描かれず、そして最後に登場した〈人格〉の人間味の薄さが、非常に怖ろしかったです。
エリザベス・ベス・ベッツィ・ベティ、この4つの人格が融合したものとは思えない、落ち着いたと言えば聞こえがいいが妙に取り澄まして裏の在りそうな挙動をする、「彼女」。
だが、モーゲン叔母とライト医師はそれを受け入れている。

統合・・・は、本当になされたのか?4つの人格それぞれが納得のいく形で?それとも、新しい「彼女」による乗っ取りだったのでは?などと疑いが浮かんでしまいました。どうにも居心地の悪い読了感。
もともとエリザベスの人格が分裂する原因となった事件は、ただのきっかけであり、それ以前からの母親やその周りの人間との関係や境遇が下地にあって、こういうことになったのだろうな・・・という推察は出来るものの、はっきりしないのも、座りが悪いです。
でも、何でもかんでも明確になることがいい事ではないし、スッキリしないのが人生だっていうのがひしひしとわかってしまい、なんとも考えさせられる作品でした。

ライト医師が自分を過大評価して自らを鼓舞しつつ、エリザベスたちの治療に挑む姿が、人間臭くて良かったですね。精神分析医だからって、常に冷静で治療に対して揺るぎなき信念があり…なんて理想であって、無理があると思いますもん。ライト医師は頑張った。だけどたぶん、エリザベスの治療にはあまり役立ってなかったんじゃないかなと思います(^^;)。

そういえば。
「彼女」が博物館を訪れ、かつての自分の席を見に行って「壁に穴が開いていた」という話を新しい事務員にした時、その新しい事務員は「壁に穴が?」といぶかしむ反応をしていました。
・・・え?人格暴走のきっかけは事務机の横に開いた穴を覗いたことによる・・・・と思っていたけど、実は違うのかもしれません。
きっかけなんかなくても、溢れ出るほどにエリザベスの中はいっぱいいっぱいだった、と。
もしかしたら、それは、誰にでも当てはまることなのでは?と、読了後に気付いて、ぞっとしました。

(2018.07.04 読了)


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