『リリエンタールの末裔』/上田早夕里 ◎

『夢見る葦笛』で、私の嗜好にピッタリと合った上田早夕里さん。
本作『リリエンタールの末裔』でも、美しいSFと精緻なファンタジーの融合に、魅了されました。
素晴らしい作家さんに出会ってしまったなぁ・・・と感慨にふけっております。他の作品も、もちろん〈読みたい本リスト〉に仲間入りです!

超絶文系人間のくせに(だからこそ?)、未知なるテクノロジーと人間の関わりを描くSFや、そういったものを含むファンタジーが大好きな私。
どの物語も、鮮やかなテクノロジーの中にひとの情緒がにじむような世界が描かれ、そして登場人物たちの心が豊かに繰り広げられていて、読んでいて心地よかったです。

「リリエンタールの末裔」
海面上昇が進んだ遠い未来、身体機能が進化した「鈎腕」を持つ少年が、〈空を飛びたい〉という夢のために懸命に生きる物語。
「マグネフィオ」
身体が不随になった友人の心の動きを磁力画像で描き出す機械を作成した。
「ナイト・ブルーの記録」
海洋無人探査機のパイロットが機械同調化症候群になり、深海で感じた感覚をいかに大事にして生きてきたか。
「幻のクロノメーター」
実在した航海用時計開発の経緯に、そっとファンタジーが滑り込む。

「マグネフィオ」の心の動きが描き出される様子が、とても美しく儚げで、読んでるだけで切なくなってきました。
主人公は、友人のためではなく、ずっと心を寄せてきたその妻のためにその装置を作り上げ、報われることのないまま彼女と離れることになり、一時だけ意識を回復した友人にも「彼女を奪わないでくれ」と頼まれ・・・。
友人の心を描いていた装置は、それをトリガーとして彼女の「思い出」のために使われると言う。自分は、彼女を視覚再現する手術を受けるつもりだ・・・。
報われない思い、友人との約束、自分に許された唯一の情報源「見るだけ」を増幅して自らに植え付ける・・・。
医学的技術の粋でありながら、情緒だけが動機の、あまりにストイックでプラトニックな願い、それにすがるしかなかった主人公の辛さと優しさに泣きそうになってしまいました。

「幻のクロノメーター」で、語り手・エリーに入り込んだ〈もの〉。
それは、物体に入り込み修復することでその物体の構造を調査する機械で、遠く離れた惑星の知性体によって送り込まれたものだそうだ。
単純脳の私からすると、それを送り込んだ者たちは、いつか地球にやってきて、その調査結果から人間を推し量って、地球がどうにかされてしまうんじゃないか(侵略とか植民地化とか、滅亡とか・・・)なんてビクビクしてしまったんですが、そういう展開にはならず、ちょっと安心しました。
クロノメーター完成とそれを公的に認知されるまでの困難の道程の物語に、こんな美しく優しいファンタジーが自然な形で滑り込んでくるなんて、素晴らしい物語だと思いました。

人が進化を続け、機械文明が進み、それでも〈人の心の豊かさ〉が失われない世界。
優しさと美しさと、悲しさや苦さがあったとしてもそれを超えていける力強さがありました。

(2021.10.27 読了)


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