『少女七竈と七人の可愛そうな大人』/桜庭一樹 ◎

昭和初期の雰囲気を持ち、あえやかな言葉づかいが似合う、ひっそりと美しい物語でした。
これが平成の設定なんですから、オドロキですね。いえ、平成でも全然違和感がなく、七竈とその周辺にはなんだか違う時間の流れと空間があるような感じです。桜庭一樹さん、・・・うむ、いい作家さんと出会えました!
ホント、こういう美しい文章は、いいですね。こころが豊かになります。普段、荒んだ生活環境(小学低学年長男&幼稚園次男とバトルする毎日)にある身としては、こういう文章を読んで、自分を矯正しなくては・・・。

『少女七竈と七人の可愛そうな大人』は、以前読んだ『Sweet Blue Age』に入っていた短編、「辻斬りのように」をプロローグとして始まる、「遺憾ながら、美しく生まれてしまった少女、七竈」の物語である。

とてつもなく美しく生まれた七竈は、古い家に祖父と2人で暮らしている。七竈は鉄道模型を愛している。幼稚園からの親友・雪風は同じく「鉄道好き」なとてつもない美少年だ。
七竈は言う。 
~~何しろ、抱いて寝るほど、細長く冷たく、黒い、あの鉄の塊が好きなのだ。男など。~~ (本文より引用)
「辻斬りのように」でまさに辻斬りのように男遊びをし、美しい七竈を産んだ母は、そのまま「いんらんな女」として、家を出たりもどったり、旅人であり続ける。対する娘・七竈は自分の美しさ・それにまとわりつく周囲を疎ましく思い、自宅の居間に広がる鉄道模型の世界に雪風と閉じこもりたいと願う。
けれど、少年少女の成長は、それを許さない。どんどん似てくる、七竈と雪風。二人は異母姉弟(兄妹)なのか。働かなくて昔は美しかった夫と、当時の夫に似た6人の子供たちの世話と、勤めを続ける、雪風の母。ふらりと戻ってきた、七竈の母・優奈。雪風の伯父・田中教諭は、優奈の元同僚であり、多分優奈の物狂いの原因となった、報われない愛の相手であると思われる。小さな町に残り続けることのできない、七竈。多くの弟妹のために、北海道を離れることができない、雪風。
二人に訪れる、別れ。
~~時の流れは、何より大事なはずのものをすべて、容赦なく墓標にしてしまう。
(中略)
さようなら、雪風よ。~~ (本文より引用)

あぁ。あぁ。美しい文章で、美しい少年少女の別れを描かれてしまうと、もう抵抗できない。
二人が、
「七竈」
「雪風」
「七竈」
「雪風」
「七竈」
「雪風」
「七竈」
「雪風」
「七竈」
と互いの名を呼びあう、その辺りでつつーっと涙が・・・。

なんか、感想書きにくい・・・どんどん感傷に走りそうで・・・。
全体的に、やんわりとしたモノクローム調な世界に、七竈の実と雪風のマフラーの赤、鮮烈ですね。けっしてどぎつい赤ではなく、表紙の絵のようにマフラーはやや古色を帯びた赤、七竈は朱色がかった赤。文章も美しいけど、文章から浮かび上がる画像も美しい。桜庭さんの素晴らしい力量に、完全ノックアウトでした

それと、老警察犬のビショップ。絶望的なまでに美少女の七竈をつかまえて「むくむく」と。
人間の見分けがつかないビショップは、匂いから、雪風を七竈と兄弟だと見抜く。たぶん、もちろん血縁のこともあるのだろうけど、2人の背景に共通する、寂しさ・不安定な感情・揺らぎを嗅ぎとったのだろうと思う。ビショップが主格となって語る章は、微笑ましい、温かさがある。人間が分からないから、犬だから、その行動は、素朴で、優しい。しかも、七竈の心に沿っている。

後輩・緒方みすずも、素っ頓狂な攻撃的少女として登場したはずが、七竈に感化され?だんだん七竈や雪風に雰囲気が似てきた感がある。普通なみすずは、七竈を「へぇ~んな、先輩」と呼び、七竈は「なんですか、後輩」と応える。最初は全然喰いちがっていた会話が、いつの間にかきちんと交わされるようになる。「普通の私」「美しい・特別な先輩たち」を語るみすずは、きっと「かんばせ」は普通のままだけれど、その身から醸し出す空気は美しくなったんじゃないかな。そんな気がします。

「死んでもゆるせない」で田中教諭の妻がゆるせなかったのは、夫の田中なのか、優奈なのか、それとも、自分なのか。
それが何だか、気になりました。いや、全てを許せなくなってるのかも。
夫を寝取られたこと、同じ小学校教諭だったはずなのに自由人として旅立つ優奈、日常に埋没する自分。そして、自分を残して逝ってしまった、夫。田中教諭の妻が出てくる章はどちらもビショップが語ってるのですが、それも意味深なのかも。嫉妬に狂う女をビショップのフラットな視線で語ることができたのが、良かったのかもしれないという気がしてきました。

七竈の母・優奈は、田中教諭にの隣席に座し、いつの間にか恋い焦がれ、田中教諭の語る「七回かまどに入れて、やっと炭になる」七竈を目指して7人の男と関係をもった。けれど、炭になることはできず、後年田中教諭と関係を持つ。
だが、それでも、優奈は、自分を満たすことができなかった。
田中教諭の死により、やっと炭になって。一番「可愛そうな大人」は、優奈だったのかもしれないな。

あぁ。なんだか、まとまりがなくなってきてしまいました。
「桜庭一樹」は良い!他の作品もどんどん予約(図書館)を入れなくては!
という宣言でこの駄文を終わらせましょう。

(2007.08.10 読了)

少女七竃と七人の可愛そうな大人
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著者:桜庭一樹出版社:角川書店/角川グループパブリッサイズ:単行本ページ数:273p発行年月:200


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