『秋の牢獄』/恒川光太郎 ◎

背後を、闇を纏った「何か」が通り抜けたような、密やかな悪寒がした。
・・・これは、本当のホラーだ。ホラーだけれど、ただ恐怖を煽るというのではなく、しんしんと降りつもる仄かな寂しさを湛え、「ひと」の心を静かな暗がりに捕えて離さない。
・・・何をカッコつけてるのかって?いや、そうじゃないんですってば!ホント、これは、すごいですよ。ガンガン恐怖を煽るホラーは逆に怖くないんですよ。しんしんと静かに、段々と捉えられて、逃げるタイミングを失って、底なし沼に引き込まれて、振り返ると、そこには密度高くわだかまる、闇。
ぎゃあ~~!!怖い怖い怖いッ!

恒川光太郎は、『夜市』で、その和製ホラーな美しさを実感していた作家さんですが、この『秋の牢獄』は、さらに上をいきますね!
しんしんと、密かに迫りくる、そこはかとない恐怖。ありえないと言い切れない、境界線の曖昧なダーク・ファンタジー。
そこに、救いはあるのか・・・。

抑えた描写で逆に陰影がはっきりして、その陰にある妖の存在が浮かび上がる、その文章力。恐怖で圧倒するのではなく、さりげない描写が後から利いてきて、とにかく、いつの間にか怖かった。まあ、水無月・Rは相当、小心者なんだけどさ。

何回も繰り返す11月7日。リプレイヤーたちの集会。だんだんと、消えていくリプレイヤー。なぜ、11月7日が繰り返されるか明かされないまま、関連があるかもわからない「北風伯爵」が通り過ぎていく。11月7日をリプレイすることを信じてくれなかった友人までが、リプレイヤーになる。主人公・藍は11月8日に迎え入れられるんだろうか。わずかな希望のある終わりが、救いだった「秋の牢獄」

1年かけて、日本全国を巡る「神の家」。その守主である翁から、訳も分らず望まないままに家を譲り受けた主人公。誰かと入れ替わりでないと「家」の敷地から出られないため、何とかして「外」の人間を引き入れようとするが、逡巡し。でも、やっと引き入れ、入れ替わった男は、狂った凶悪な男で、「神の家」を利用して快楽殺人にふける。その男を何とか「神の家」から出そうと、乗り込んでいく主人公が最終的に迎えた結末は、「神の家の焼失」。古来より続く、全国を巡り、様々なものをもたらし交流してきた、神の家は、消えた。軽やかに始まったかに見え、悪意に染まっていく、「神家没落」

幻想を産みだす能力を持った女性の復讐譚、「幻は夜に成長する」。幻想の力を、宗教団体に囚われて利用され、密かに力を貯めていく・リオ。能力向上の波にのみ込まれ、翻弄され、耐えた後に、今まで貯め続けた悪夢と悪意を解き放つ。一瞬にして、人が狂う、圧倒的なまでの、悪意、憎悪、地獄、絶望。リオは、自由になれるのか。
実を言うと、案外怖くなかったです、これは。典型的な、圧倒的な恐怖、だったからかな。もちろん、読後のザラザラとした嫌悪感はぬぐえませんでしたが。

ある時、ふと振り返ると、異界に取り込まれていて、という日常からほんの少しずれたところにある異界は、もしかしたら、どこにでもあるのかもしれない。いつか、私も、そこへ迷い込むのかもしれない。そんな気持ちになった、しんしんと怖い作品でしたね・・・。描写が美しくて、逆にそれが、怖い感じがしました。

・・・っって、うわッ!気が付いたら、すごく感傷的な文章になってたわ。ビックリ。もっと冷静に書くつもりだったんですが。あははは。

(2008.01.18 読了)

秋の牢獄
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著者:恒川光太郎出版社:角川書店/角川グループパブリッサイズ:単行本ページ数:223p発行年月:20


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