『ジーン・ワルツ』/海堂尊 ◎

海堂尊さんと言えば、桜宮市にある東城大学医学部付属病院に発生する怒涛のトラブルの物語「バチスタ・シリーズ」が今のところのメインですが、今回の舞台は桜宮市ではなく、東京の産婦人科医療問題。
『ジーン・ワルツ』の主人公は、帝華大学の産婦人科学の気鋭の助教・曾根崎理恵。物語は官僚の求める現実に則さない医療制度の在り方に問題を提起してゆく。

読了して、思い出した。次男を出産した個人病院の母親教室や助産師の指導で、妊娠の過程や出産時のことを少し学んだ。確かに、妊娠は病気ではない。でもさまざまな淘汰を経て、生まれ出てくる子供は、奇跡に近い。妊娠全期を通して、分娩時も、そして出産後にすら、数多くのトラブルが待ち受けている。安全であってほしいその過程だが、致し方ない面も多々ある。
実際、妊娠・分娩と何の問題もなく生まれた私の次男は、生まれて5分後に救急車で市民病院のNICUに搬送された。その時の心臓欠陥は乳幼児のうちに自然治癒したので、普段はすっかり忘れてしまっているのだが。一つの命が発生し、無事生まれて育つのは、本当に奇跡に近いのだ。

閉院間近の「マリアクリニック」。最後の患者となる5人の妊婦。通常妊娠、人工受精妊娠、望まない妊娠、流産、そして・・・代理母ではないかと疑われる高齢の妊婦。末期癌におかされ、またさまざまな事情から、診察できなくなった院長・三枝茉莉亜の代わりに診察をするのは、帝華大から派遣される医師・理恵。
淡々と5人の妊婦を診察し、妊娠の状態を妊婦に報告し、彼女らに判断を下してもらう。
4人の妊婦が次々に産気づき、理恵・清川・茉莉亜・妙高助産師の奮闘のうちに、子供が生まれてくるシーンには手に汗を握った。
その後、理恵は帝華大学を辞し、現状に則さない産婦人科医療を現場から変えようと、マリアクリニックを継承。マスコミと手を組み、「セント・マリアクリニック」として新体制を敷き、地域医療改革を目指す。
もちろん、理恵の目指す地域医療改革はの実現への道程は、とても遠く困難なものだ。それこそ官僚たちや学府からの妨害もあるだろう。世間からの無理解(特に情報操作による世論誘導など不安要素は多い)も。
が、理恵はきっと、一つ一つそれを解決し、実現へ一歩ずつ近づこうとするのだろう。

理恵は、いつこの計画を思いついたのだろうか。自分の子宮頚癌がわかった時だろうか。茉莉亜院長の息子の逮捕がきっかけだろうか。どちらにしろ、本当の医療(もちろん医学も大切なのだけれど)を憂慮したからこその反旗。
理恵の用意周到さ、様々な要因をうまく結び付け、自己の有利へ展開させる誘導力、怖るべき頭脳ですね。自分の病気の手術すら、理想実現への手段へと変えるその冷静さ、「クール・ウィッチ(冷徹な魔女)」はまさに言えて妙。あの頭の良さは、素晴らしい。

ただし、理恵が人工授精時に取った手段は、肯定できない。清川をからめとる手段として、それを利用するとは。生まれ出た子供の遺伝子上の父母が誰かという問題は、倫理に則るべきではないだろうか。綺麗事かもしれない。だが、やはり知らないうちに他人の・・・となるとやはり、抵抗感が強すぎると思う。

今回は、東城大学医学部付属病院が舞台ではないので、田口センセや高階院長は影も形もありません。残念だな~。厚生労働省の話が出てきたので、白鳥が出るかと期待したんですが、こちらも出てこず。まあ、白鳥が出てくると、話がこんぐらがって(笑)、しかも笑いの方向へ向かっていきそうなので、今回のシリアス路線には合わないのかも知れませんが。
海堂さんの作品は、あちこちで登場人物などがリンクしてるので、『ジーン・ワルツ』は【バチスタ・スキャンダル】の前か後か、気になりました。

海堂さんが、日本医療の在り方に警鐘を鳴らしている。そう感じました。我々一般市民(つまり患者側)の意識も、変わってゆかねばなりませんね。

(2008.06.25 読了)
ジーン・ワルツ
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著者:海堂尊出版社:新潮社サイズ:単行本ページ数:265p発行年月:2008年03月この著者の新着メ


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このあとすぐ、『医学のたまご』を読んでわかりました。直前、ですね・・・)

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