『ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ』/アンソロジー ◎

今年は「源氏物語千年紀」なんですよね、確か。
紫式部が描いた、海外でも絶賛されるこの物語を、9人の現代の作家が大胆に描き直した、この『ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ』。それぞれの魅力を尽くして描かれるその9つのパラレルワールドは。

じつは水無月・Rは、『源氏物語』は好きなのだが、源氏の君が嫌いである。
権勢と容姿の良さをかさに着て、やりたい放題わがまま三昧、というイメージが強いのである。確かに頭も良く情もあるのだけれど、それが発揮されるのは自分優先であって、女君たちの意思を汲むよりはやんわりと強制する感じを受けてしまう。そして偉そうなことを言う割には、ちょっと自分に陰りがさすと、めそめそ泣いて見せたりして・・・イラつくのである。
そんな源氏の君を痛快なまでにやっつけた章もあり、称賛した章もあり・・・なかなか興味深く読めましたよ。

「帚木」松浦理英子
割と原作に忠実な、雨夜の品定めから、空蝉の矜持を描いて。
「夕顔」江國香織
流される中の品の女。六条の御息所の怨念。(原作忠実系)
「若紫」角田光代
自ら連れ去られるように演出したつもりの紫の上。しかし、本当は。鮮やかに翻案される物語。
「末摘花」町田康
現代女子高生のような、無責任感たっぷりの源氏の君。いっそ清々しいよ(笑)。
「葵」金原ひとみ
子供が出来て変わってゆく女。現代に置き換えられた物語。
「須磨」島田雅彦
自ら配流され、謹慎する源氏の君。明石入道の思惑。(原作忠実系)
「蛍」日和聡子
源氏の卑しい横暴に悩む、玉鬘姫。(現作忠実系)
「柏木」桐野夏生
皇女の身分、実際の中身。幼さは罪なのですか。女三宮の独白。
「浮舟」小池昌代
浮舟の世界に浮遊して、追体験する女性の物語。

うわぁ~、ホント、読んでて更に源氏の君に反感が・・・。
特に「柏木」の章。まあ、女三宮の僻みもやや入ってるので、多少割り引くとしても、すっごく共感しましたよ、女三宮に。
「蛍」の章でも、源氏のいや~な所が、がんがん出てくる。
そうだぞ~!源氏の君って、こんな厭な奴なんだぞ~。世の女性たちよ、騙されてはいけな~い!
優雅な外面ではなく、直接関わった女君たちの怨嗟の声も聞こえてくる、こういう描き方があるのは、私的に本ッ当~に絶賛したいです。

角田さんの「若紫」も、水商売の世界の女の子が、お金持ちで美しく品のある男に魅かれて願いかなって引き取られるのだが、という物語も、最後に自ら気づく「とらえたつもりだけどやはり捉えられたのでは」という不安が最大限に広がっていく描き方が良かった。その不安に包まれて、飲み込まれそうになりながら、男をまじまじと眺める、紫の上。彼女なら、違った「源氏物語」の世界を生きるのではないかと感じた。

・・・そんな中で異色の一章が(笑)。
町田康氏による「末摘花」である。ある意味、源氏の君を貶めて笑いを取るという、反則技?
でもね・・・水無月・R的には、源氏の君がこういう気分で物事取り扱ってる部分、多々あると感じるのである。
とりあえず、大輔の命婦との投げやりな会話がいい。ケータイ小説読みまくりの女子高生みたいな、乱暴に短文な地の文。末摘花に感じた驚きが、素直に疎む気持ちになってるあたりも、逆に正直でいい。実際、自分勝手な男ですよ、源氏の君は。

今まで一番面白いと感じていた、『源氏物語』の再話は田辺聖子さんの「新源氏物語シリーズ」だったのですが、町田さんのも、かなりいいです。もうどうせなら、どんどん源氏の君をこき下ろしてください。(←個人的感情)

(2008.12.19 読了)
ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ
楽天ブックス
著者:江国香織/角田光代出版社:新潮社サイズ:単行本ページ数:285p発行年月:2008年10月この


楽天市場 by ウェブリブログ



"『ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ』/アンソロジー ◎" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント