『鼓笛隊の襲来』/三崎亜記 ◎

ふおお~、三崎亜記さんらしいエッセンスの詰まった、短編集ですね~。一見、私たちの暮らしている世界と違いはないようなのに、ほんの少しのルールの違いが決定的に世界を全く違うものに変えてしまう。その鮮やかさに、溜息が出てしまう。
『鼓笛隊の襲来』の様々な世界は、哀しいような暖かいような、不思議な味わいがあります。

三崎さんの作品を読むと、いつも思うんですよねぇ・・・(^_^;)。「三崎さんの作品設定ノートが見てみたい~!」って。今回も思いはしたんですが、この間の『六月の夜と昼のあわいに』と違って、短編だから世界観に深く踏み込んでいない作品が多く、逆に物語の世界に入りやすかったです。

「鼓笛隊の襲来」
戦後最大の鼓笛隊が、街にやってくる。それを乗り切ることは出来るのか?
「彼女の痕跡展」
ある朝、恋人を喪失した、という意識にとらわれた私。その私の紛失した品々を飾る展覧会があって・・・。
「覆面社員」
全ての労働者に「覆面」を被ることが認められている。「覆面」を被り続けるものは、別人格を得て。
「象さんすべり台のある街」
本当の象が、滑り台になって現れる。象は、象の墓場へ行くのだ。
「突起型選択装置(ボタン)」
ボタンのある女達が監視される世界。ボタンを押すとどうなるのか、彼女達は寂しげな微笑みを残して去ってゆく。
「「欠陥」住宅」
友人の姿が見える窓。だが、その世界は、ここにない。
「遠距離・恋愛」
近くにあるはずなのに、遠い街に棲む恋人。
「校庭」
卒業した小学校の参観に行き、校庭の真ん中に立つ家を見つけてしまった私は。
「同じ夜空を見上げて」
ある日、一本の下り電車が乗っていた人たちごと、忽然と姿を消した。その後、毎年その日になると、上り電車とその電車が一瞬だけすれ違う。

台風の代わりに「鼓笛隊」が列島を横断する。その行進曲を聞いてしまった人は、幼児化して鼓笛隊に追従してしまう。自ら倒れてしまうまで。12万人もの追従者が出たという。この発想がすごい。多分私は、鼓笛隊についていってしまうタイプの人間だと思う。

背中にボタンがある美しい女たちは監視されている。彼女と関わった人間は政府?組織に「特定突起型選択装置暫定占有申請書」を出さねばならない。監視されているのは、彼女たちではなくボタンなのだ、と彼らは言うが。ボタンのある女とひと時を過ごした男は、「ボタンを押したらどうなるのだ」と問いかけるのだが、誰もそれに答えてはくれない。なにも起こらない気もするし、何かとてつもないことが起こるような気もする。なぜ、女の背中なのだろうか。

「覆面社員」の中で〈バスジャック規制法〉という言葉だけがちらっと出ている。とすると、コレは『バスジャック』の世界の物語なんだろうか。覆面を被るだけで、別人格を得、そしていつしかそれが素顔になってしまう。なんだか物悲しい物語だった。

9つの物語のあちこちに散りばめられる「記憶」という仕掛け。はたして同じ経験をした人たちは全く同じ記憶を持っているのだろうか?そんなことはない。物事は多面的であり、かつ個々の主観が挟まればなおのこと。そんな記憶のズレ、普段の生活から1つだけルールが変わること、それだけで、こんなに違った世界が描かれていく。
美しいけれど儚い、薄い紗の布を透して見ているような、不確かな世界。不安をそそるのだけれど、その不安定さ故に、心惹かれてしまう。

(2010.02.04 読了)

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