『それからはスープのことばかり考えて暮らした』/吉田篤弘 ○

この作品、以前吉田篤弘さんの『百鼠』を読んだときに、イマイチ私には合わないなぁ~というレビューを書いたんですが、その時に雪女さんという方からコメントで「別の作品でいいのがありますよ」と教えて頂いたので、「読みたい本リスト」入りしてました。
『それからはスープのことばかり考えて暮らした』という長いタイトルが印象的です。

仕事をやめ、住まいも変えた僕(オーリィ君)は、新しく住む街をゆく人たちが皆「3」と書いた紙袋を大事に抱えて歩いて行くのを見て、大家さんに尋ねると「おいしいサンドイッチ屋さんなのよ」と教えられる。
古い映画の大好きな僕は、そのサンドイッチを買って映画館へ向かう。僕の見るのは、とある女優(主役ではなくどちらかというと端役)が出てくる映画ばかりなのだが、その映画を見に行くと、ときどき出会う老婦人がいる。
サンドイッチ屋「トロワ」(フランス語で「3」)に通い詰めるうち、そこの小学校4年生の息子と知り合いになったり、トロワにスカウトされたりして、緩やかに日常が過ぎて行く。
あちこちの映画館で出会う老婦人は、あの女優ではないのか。トロワで新しくスープを売りに出そうかということになり、試作品を作っては、大家のマダムやトロワのオーナーやその息子に試食をしてもらう日々。
老婦人と知り合いになり、特製スープのレシピを教えてもらい、それにいくらかの独自の改良を加え、素晴らしいスープが完成する。

主人公・オーリィ君も、周りの登場人物たちも、街の人たちも、映画館のポップコーン売りの青年も、皆が心優しくて、健気に生きている感じが、ちょっとむずがゆかったりする(笑)。
イヤ、私自身がもう、人として純粋じゃなくなってるんだなぁ、ということなんですけどねぇ。

あのひとは憧れの女優なんだろうか、きっとそうなのだろうと思いつつ、直接聞くことはしないオーリィ君。
サンドイッチ屋の息子・リツ君が家出して来て自分の部屋に転がり込んで来ても、鷹揚に受け入れるオーリィ君。
教会へ密やかに通うトロワのオーナーと、それと知らず同じく教会の近辺に出没するリツ君。
映画館で、スープをすすったり、口笛を吹いたりするあおいさん。
フランス映画のマダムのような、大家さん。
支配人が失踪し、他の従業員もいなくなった映画館を一人で切り盛りする、ポップコーン売りの青年。
色々な人が、密やかに、温かく繋がりながら、緩やかに穏やかに流れて行く、何気ない日常。
その中に、ちょっとだけ優しい、温かい事が起こる。

ラストで「オーリィ君の作ったスープが飲みたいわ」と、あおいさんに言われた、オーリィ君。
きっと、これから完成したスープに安定性とさらなる改良を求めて、オーリィ君はスープのことばかり考えながら暮らしていくんだろうなぁ。
その中のスパイスとして、あおいさんのことやトロワのサンドイッチのことや、大家のマダムや映画館の青年たちとのかかわりがあり、更に素晴らしいスープに仕上がっていくんだろうと思います。

そんな、優しい物語でした。
ただ・・・先述しましたように、人として純粋性を失っちゃった私には、「ファンタジーだなぁ~」って感じてしまうんですよね(笑)。
いえ、だからこそ、優しさが際立つというか。
ラストの「名なしのスープの作り方」、レシピかと思ったらスープ作りの心構えでした。
どうだろう、これの通りに作ったら、おいしいスープが出来るかしらん。

(2010.07.27 読了)

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