『ホテルローヤル』/桜木紫乃 ○

湿原を見渡せる場所にある、一つのラブホテルの変遷を遡っていく短編集、『ホテルローヤル』
桜木紫乃さんの直木賞受賞作ですね。
釧路湿原に行ったことがあるのですが、あの風景(特に冬)の中にさびれた(廃墟化した)ラブホテルがあったとしたら、とても物悲しい感じがすると思います。
ラブホテルが舞台だといってもエロスな物語ではなく、淡々した淋しさが流れ続けていました。

「シャッターチャンス」
元ホッケー選手の恋人の「挫折」という言葉に惑わされ、廃墟となった「ホテルローヤル」でのヌード投稿写真の撮影を受け入れる美幸。
「本日開店」
寺のため檀家衆に奉仕する、大黒の幹子。「ホテルローヤル」経営者の遺骨を受け取る。
「えっち屋」
「ホテルローヤル」を閉めることを決意した経営者の娘・雅代が、大人のおもちゃの営業の男に提案をする。
「バブルバス」
ひょんなことから浮いた5千円を手にした恵は、夫を「ホテルローヤル」へ誘う。
「せんせぇ」
「ホテルローヤル」廃業の直接原因の心中事件を起こした高校教師・広之と教え子・まりあが、ホテルローヤルにたどり着く少し前。
「星を見ていた」
「ホテルローヤル」の掃除婦のミコ。彼女の人生は。
「ギフト」
ラブホテル経営開始を妻子に嫌がられ去られた大吉。愛人とともに「ホテルローヤル」を立ち上げる。

「せんせぇ」が切なかったです。
高校教師と教え子の心中事件の背景にあったのは愛などではなく、二人それぞれのよりどころのないやるせなさ。二人は、どこへも行けなかったからたまたま一緒に死を選んだ、というだけだったのだ

「星を見ていた」のミコ(ハイカラな名前だがとうに60歳を超えている)は、自分の母の「誰も恨まずに生きていけ」「なにがあっても働け」の言葉を胸に、愚鈍なまでに実直に働き続ける人生を歩んでいる。そんな彼女を見舞った次男の起こした事件。それを知った夜、家に帰らず山に入り、星を見上げていた彼女を迎えに来たのは、夫だった。ミコが自分の人生を厳しいものと自覚していないというのが、読んでいて苦しかった。そんな彼女が無意識に、戻れないかもしれない夜の山に入り込んで、迎えに来た夫を一度はやり過ごし、それでもやはり共に帰ることを選べたこと、救いだと感じました。

「バブルバス」の、5千円あったら何に使えるという恵の想像がリアルすぎて、心が痛かったです。私も5千円の余裕があったら、何に使うか…なんて、ストーリーに関係ない想像で脱線してました(笑)。私だったら、ホテルには使わないかな~(^^;)。
生活が苦しくて、夫の父親を引き取ったけれどあまりうまくいってなくて。恵がパートに出るようになったら、彼ら一家の暮らしは変わるのだろうか。変わるだろうという余韻があるラストだったのに、なんだか切実な章だった印象が強かったです。

全体的に淡々と枯れていて、登場人物たちの諦めの気持ちはさばさばとしているのに、それでいてその足元には切なさが足首ぐらいまでひたひたとしてるような、気持ちを残した感じが、とても印象的でした。その足元がぬかるんでいるイメージは、湿原を背景にする物語だからかもしれません。
何かを割り切ることは難しくて、それでも人の人生は続いてしまうから、ぬかるみの中を足を引きずって歩く。ぬかるんでいるから、その足跡は残らない。なんだかそんな気がしました。

(2016.07.06 読了)

ホテルローヤル (集英社文庫)
集英社
2015-06-25
桜木 紫乃

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